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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~ 第二話 其の九

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の九

 ハーフタイム、ロッカールームの空気は最悪だった。
 ひそひそとした会話は聞こえてくるが、愚痴めいた話ばかりで選手同士で意見を交換しているふうでもない。誰一人この場を纏めようとせず、どこか気だるげな空気すら流れている。
(負けているんだぞ、わかっているのか?)
市天のコーチである鯨崎は、苦々しげに思った。
練習試合だからだろうか、どうにも弛んでいる。一点ビハインドだが追加点は与えていないしチャンスはそこそこ作れているから、そのうち逆転出来るだろう、という意識がその緩みを作り出しているのだとしたら、それこそがビハインドを背負っている原因なのだ。
(そんなだからお前らはBチームなんだよ!)
 鯨崎はそう一喝したかったが、監督には「今日は口を出すな」と厳命されている。先発もあらかじめ監督の決めたオーダーで、鯨崎に委ねられているのは選手交代の判断だけである。
 監督の意図はわかる。誰かに喝を入れられなければこの弛んだ空気に飲まれたままだとすれば、一軍に行っても早晩同じことになる。そうではなく、自分でモチベーションを作れる選手を選別しようというのだろう。
 だが、これはあまりにひどい。もともとが全国でもトップクラスの連中が集まる市天サッカー部だ。鼻っ柱の強い選手ばかりが入部してくる。そういう連中は一度その鼻を折られると、腐るのも早い。腐っても早めに立ち上がるなら見込みはあるが、そのままだらだらと部に居座る部員の何と目障りなことか。いっそ辞めてもらった方が部全体のためだと鯨崎は思う。
 誰か交代させるか。だが控えの雰囲気は先発より悪いし……。
 鯨崎が難しい顔をしていると、一人の選手が話しかけてきた。
「あ、あの、コーチ……」
「うん? ……三島か。何だ?」
 こいつから話しかけてくるなんて珍しいな。というか、鯨崎はこの男が部内で自己主張している姿をお目にかかったことが無い。故に三島の印象は、ほぼ皆無と言ってよかった。その三島が、何か意志を持った顔で鯨崎の前に立っている。
「ぼ、僕を、後半から出してくれませんか?」
「あ?」
「ででで出過ぎた真似でしたよねスイマセン大丈夫です!あの……」
「いや、待て、怒ってるわけじゃない」
「ははははい!」
 これは、意外な……。
「おい三島! 下手糞が出しゃばるんじゃねぇぞ!」
 すかさず野次と哄笑が飛ぶ。だがそれでも、三島の目に揺らぎは見られなかった。
「三島」
「あ、はい!」
「いきなり出してくれと言われてもな、出たいのは皆一緒なんだ。まず、なぜお前が出るべきなのか、お前を出すとどうなるのか、皆に説明してみろ」
「ええ?! ええと……」
「ほら、早くしろ。ハーフタイム終わっちまうぞ」
 どもりながら、たどたどしく話し始めた三島をやや歯がゆく思いながらも、鯨崎は現状を打破するかもしれない希望を見出したかもしれないと思っていた。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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