スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』序の巻

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』

【序の巻】


「忍」――。
 其が生きるは闇。其が往ぬは影。
 刃の下に心を隠し、屍山血河に身を投ず。
 光当たらぬ血の底で、其は修羅となるや悪鬼となるや――。
 
                   *

 ゴールキーパーとは損なポジションだと、西岡晴樹は思う。
 試合は現在後半始まって10分。西岡がゴールマウスを守る羽賀高校サッカー部は1対0でリードしており、全体として見ても羽賀高が押している。ボールは相手陣地に行ったきりで、味方がキープする時間の方が長いから、キーパーが絡むシーンが極端に少ないのだ。
 もうすっかり春になったとはいえ、動かないでいるとやはり肌寒い。
 西岡は、ややバランスの崩れたセンターバックの二人に位置を修正するよう告げると、手持ち無沙汰になってペナルティエリアの淵で何度か飛び跳ねた。

 サッカーというスポーツにおいてゴールキーパーが目立つ瞬間と言えば、何といっても相手のシュートを華麗に止めるファインセーブだ。一瞬の状況判断と反射神経が求められる芸当であり、シュートを止めれば当然、賞賛が贈られる。しかし、あれははっきり言ってギリギリの状況なのだ。キーパーがファインセーブをせざるを得ないような状況は、チームにとっては歓迎したくないものであり、ディフェンス陣はそうならないように動かなければならない。当然、キーパーもだ。
 キーパーは常にチームの最後尾にいるため、ピッチ全体の動きが見やすい。そこから選手に指示を出して気になる部分を修正させたり、声を上げて鼓舞したりするのも重要な仕事なのだ。
極端な話、一度もボールに触らずに試合を終えるのがキーパーとしての理想だという人もいるくらいだ。
 つまり、キーパーがその役割をきちんと果たそうとすればするほど、そしてそれにチームが応えれば応えるほど、キーパーというポジションは目立たなくなってしまう。そういうジレンマを、ゴールキーパーは抱えているのだ。
 西岡は、それならそれでいいと思っている。目立つのは性に会っているわけじゃないし、キーパーがいないとチームが成り立たないのもまた、事実だからだ。
 ただ、今日の練習試合に関しては、西岡は若干いつもより気合を入れている。
 理由は単純、「女子が見ているから」だ。
 新学期最初の練習試合の相手になったのは、私立葉倉高校。
(「はくら」だったか、アレ……「わくら」だったかな……)
まあ、どちらでもいいか。確か、今は共学だが数年前まで女子高であったため、女子の比率が男子より遥かに多いので県内でそこそこ有名な高校であった。
 だから、練習試合だというのに、女子がたくさん見ている。男子校生の西岡としては、それだけでも奮起するには十分すぎる要素であった。
 目立ちたい。モテたい。いや、たとえ彼女らが俺のことを見てくれなくとも構わない。ただ男子校生として、共学の、それも女子だらけの学校の連中に負けることは許されなかった。事実、妬みにも似たその闘争心は、西岡のみならず羽賀高イレブン全員に共有され、現在の攻勢の原動力になっていたことは疑いようがなかった。
(ん……奪われたか……)
 ようやく、と言っていいだろうか、ハーフウェイライン付近でボールを奪った葉倉が攻勢に出ようとしていた。
 葉倉は後半に入る際、メンバーの半分くらいを入れ替えてきている。前半とは別のチームと言ってもいい。だがそれでも、まだチャンスらしいチャンスは作れていない。(抑えられる)と西岡は思っている。
「速攻来るぞ! 白井は9番警戒!」
 西岡の読み通り、葉倉のワントップの9番にロングパスが入る。だが、トラップした時点でセンターバックの白井に詰められており、9番は苦し紛れのミドルを放つしかなかった。9番のシュートはゴールまで届かず、西岡の前で力なくバウンドした。西岡はそれを普通に捕ればいい。
「よしよし! いい調子だ! ゴール前で好きにさせるなよ!」
 好調だ。いいサッカーはディフェンスから。守備が上手く回れば攻撃回数も増える。まだまだ得点のチャンスはあるだろう。
(今日は勝てる。これで新チームも調子に乗れる!)
味方が上がるのを待って、フィールドキック。フィフティのボールは相手に取られたが、今日の守備ブロックは破られる気がしない。葉倉で唯一前線に張っている9番はパスコースを封じて孤立させている。おそらくエースなのだろうが、一人でこの状況を打開する力は持っていないと見た。

 葉倉は、後半から途中交代した7番が中心になってパスを回し始めた。ポゼッションを高めてこちらの隙を伺いながらじりじりと前進、守備が乱れたところを狙うつもりなのだ。だがゆっくりボール回ししてくれる分、味方が自陣に戻る時間も十分にある。
 西岡は注意深くペナルティエリアの周りを観察する。葉倉の選手が攻め上がってきている。9番がペナルティエリアに入ってきているが、きっちりマークがついている。あとの選手のポジショニングは中途半端だ。そこでパスを貰っても何も出来ない。右はサイドバックが戻ってきている。左は、誰も来ていない。
「大丈夫だ! 人数は足りている。ミドルだけ警戒しろ!」
 葉倉の起点となっている7番がボールを持つ。葉倉の攻撃陣が前へ走り出す。
(パス! どこに出す! それとも直接か!)
 西岡が身構えた次の瞬間、7番の蹴ったボールは誰もいない左サイドへ弧を描いて飛んで行った。
(ミスキック! よし儲けた)
 ゴールライン割る、追わなくていい、と指示を出しかけたその時、西岡は信じられないものを見た。いや、おそらくその時、自陣に戻ってきていた選手はみな信じられなかったはずだ。
 誰もいなかったはずの左サイドを駆け上がってくる選手がいる。番号は、13番。
13番は、俊足を飛ばしゴールラインを割るはずだったボールを拾うと、そのままの勢いでペナルティエリアに侵入して来た。
 こいつ、今までどこに居やがった? いや、そもそもこんな奴いたっけ?
 突如「湧いて出た」敵の存在に、羽賀高ディフェンスは一瞬対応を戸惑う。
 誰かが潰しに行くか? しかし今付いているマークをほったらかしには出来ない。しかし誰かが行かなければ、どフリーでゴールエリアまで侵入してくるぞ。誰が行く? 俺が行けばいいのか? それとも……。迷わず突っかかって行くには、羽賀高は守備の人数が多すぎた。
 ようやくセンターバックの大河がそちらに向かい始めた時には、13番は既に中途半端なポジショニングの羽賀高ディフェンスの隙間に侵入し、シュート態勢に入っていた。
「止めろ!」
 西岡は叫び、飛び出した。
 大河がブロックに入ったが間に合うまい。ならば俺が、体を張って止めなければ。
 13番が右足でシュートを放つ。
 懸命に手を伸ばしたが、ボールは西岡の左脇をすり抜けて……ゴールポストを叩いた。

 その日の練習試合、羽賀高は1-3で敗れた。
 13番のシュートは間一髪ゴールポストが阻んだが、跳ね返ったボールはマークを外し抜け出していた9番に押し込まれた。これで同点。
 2点目はフリーキックから。壁の隙間からやはり突如として現れた13番に気を取られ、他の選手へのチェックが甘くなっていた。結果、ゴール前で悠々とボールを手にした葉倉の8番に余裕で決められ逆転。
 3点目に至っては、最初から13番を警戒していようとしたが今度は見つからず、どこにいるのかときょろきょろしている隙に7番にミドルを沈められた。
 あまりに不甲斐ない連続失点。羽賀高ディフェンスは13番一人の存在に混乱させられ、崩壊したも同然だった。監督には叱責されたが、しかしなぜこのような事態になったのか正確に把握している選手は誰ひとりいなかった。
 試合後、帰りの電車の中で、西岡は左サイドバックを担当していた尾上に、マッチアップしていた13番のことを聞いてみた。すると尾上は声を潜めて、
「あの、こんなこと監督に言わないで欲しいんですけど……」
「ああ。正直俺も今日の試合については言いたくないことがたくさんある」
「13番、いないんですよ」
「いない?」
「いや、いないっていうか……確かに最初はマークしてるんですけど、そのうち、その……言いにくいんですけど……」
「いいから言ってみろ。誰にも言わないから」
「……忘れちゃうんすよ。マークしてたこと」
 はあ? と西岡は声を出さずにあんぐりと口を開けた。
「いや、わかりますよ! 言いたいこと。でも、何というか、あの13番、妙に印象に残らないっていうか、影が薄いっていうか、気付いた時には頭から消えちゃってるんすよ」
 尾上の言葉は、わからなくもなかった。きっと、あの時ピッチにいた誰もが「誰だコイツ」と思っていたはずだ。後半から交代で出場した選手だと思ったが、西岡の記憶ではそれすら曖昧だった。
(そういうプレイヤーってことか……)
 一本のパス、一本のシュート、それだけで局面を変えてしまうことができるプレイヤーは、まれにだがいる。だが、「いない」ことでゲームを動かす選手がいるなどとは、想像だにしなかった。
 西岡は、苦杯をなめさせられた葉倉の13番のことを決して忘れないだろうと思った。大会になればまた当たる可能性もある。そうなったら今度は決して逃さないと心に誓った。
 だが、不思議なことに彼の顔だけは、どんなに頭を捻っても、思い出すことが出来なかった。

                                   【続く】
スポンサーサイト

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

熊谷雑文組合

Author:熊谷雑文組合
熊谷雑文組合運営のブログです!皆で書いてたりします★
◆メンバー(このブログの執筆者達)
小竹大樹…隊長的な人
朽葉…ネットランナー
善浪栄一…目が死んでる
萌兄…イラスト係兼、メイド狂
環俊次…2次元ジゴロ
加糖コージ…中学二年生
きのこ汁子…ドール愛好家
など。

最新記事
カテゴリ
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
月別アーカイブ
Twitter
カウンター
ご意見、ご感想

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
コメント
トラックバック
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

デジタル書房
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。