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『久留里忍法帳~わくらばっ!~』 第一話その2

久留里忍法帳~わくらばっ!~

1-2

「中学では、サッカー部? ポジションは?」
「ええと、3年間サッカー部でしたけど、ポジションは特に決まっていません。空いた所に適宜という感じで」
「じゃあどのポジションも経験しているのね」
「でも、結局最後までレギュラー取れなかったし」
「なんで? 下手だったの?」
「というか……気付かれなくて……」
「気付かれない?」
「出場しても誰もパス出してくれないし、俺のパスには誰も反応しないし、そもそも選手交代の段階で後回しにされるというか……忘れられてるというか」
「いじめ……?」
「いやあ違うだろ。それはやっぱり……」
「……ああ、忍者だからね」
 
 齋藤宗美(むねよし)は忍者である。
 忍者は隠密任務がその生命であるがゆえ、日常生活においても影が薄い。目立たない。
忍の本能は、人々の耳目を集める行為を避ける。そのように育てられる。忍の子は幼い頃より、人中に於いて目立たぬよう仕込まれるのだ。
従って、忍の子として生まれた者は、華々しい学生時代を送ることをはなから諦めねばならぬ。担任に出欠を取り忘れられるなどは日常茶飯事。文化祭では一人役割を与えられず修学旅行の班割りでは必ずあぶれる。チームスポーツなどしようものなら誰も彼の存在に気付かず一ゲーム終えることは最早必定と言えた。
 宗美もまた、小・中とそんな学生生活を送った現代忍の一人であった。ただ宗美は、齋藤家を継いで忍者となることが決まっていたため、学校の事にはそれほど執着しなかった。どうでもいい、いずれ関係なくなる世界である、と醒めた目で見ていた。普通の学生の普通の青春を自分が送れないことに、些かの劣等感も無かった。
 そんな宗美が、何故中学ではサッカー部に所属し続けたか。部の人間のほとんど、監督にさえも顔を憶えられないほど目立たず、孤立しながらも、宗美はサッカーをやめなかった。
 
「コマに教わったからだろ?」
 宗隆は単純にそう言う。確かに、宗美にサッカーを教えたのは駒子だった。宗美がまだ小学校低学年の頃である。
 忍の家に生まれ、幼少より修行の日々を送っていた宗美にとって、サッカーはほとんど唯一の娯楽だった。体力の増強や足捌きの訓練にも通ずるとして父も宗美がサッカーを続けることを禁じなかった。
「駒子は昔から上手かったものなぁ。サッカーでは俺でも敵わなかったもの」
 宗隆は懐かしそうに昔日の思い出を振り返る。そうそう、宗美も駒子にえらい懐いていて、始終後ろをくっついて歩いていたな。ボールを蹴りながら。
「そう……あれからずっと続けてくれてたのね」
「修行の他には、それくらいしかやることなかったから……」
「今、ボールはある?」
「そりゃあ……」

 それから日が暮れるまで、宗美と駒子はボールを蹴った。
駒子は上手かった。細かいタッチでボールを足元から離さない。フェイントも豊富で、緩急の差の激しいドリブルは次の行動を全く読ませない。行動宗美も十年近くサッカーを続けていたが、一対一では全く歯が立たなかった。
息を切らし、汗まみれになりながら、しかし宗美はどこか清々しかった。兄がいなくなってから、ずっと溜めこんでいたものを全て吐きだしてしまった気分だった。そんなものがあることを、見て見ぬふりし続けていたことに、或いは気付いたのかもしれなかった。
「……ソウビ、私のチームに来なさい」
「チーム?」
「そう、私の育ててるチーム」
「でも、俺は……」
「どうせこれからどうするか何も決まってないんでしょ? だったら来なさい。ソウビの力が必要なの」
「必要……俺が? こんな中途半端な」
「いいから来い!」
 そうだ宗美、お前は誰かに命じて欲しいのだろう。忍だからな。そうでなければ、自分の進むべき道が見えないのだろう。だから命じてやると言っているんだ。私の下で働け。お前の力、私が有意に使い尽くしてやる。
駒子の傲岸とも言える言葉が、宗美の心に光を灯していた。情けない話が駒子の言う通りなのだ。何をして生きればいいのかわからない。主に命じられなければ何の存在価値もない。それが忍なのだ。今にして思えば、兄はそれを嫌って家を出たのだろう。だが今の宗美にとって、駒子の言葉は救いそのものだった。
「私には大望がある。それを成就するためにお前の力が必要だ。忍者としてのお前と、フットボーラ―としてのお前が要る。だから私に仕えろ! お前の生きるあかしを私に寄越せ!」
「はっ!」
 宗美は思わず、駒子の前に平伏していた。有り難いと思った。この人は俺に存在意義を与えてくれる。俺はまだ何も全てを失っていない。
「あー、で、さあ、コマの大望って何よ?」
 宗美と駒子のやり取りを呆気にとられたように眺めていた宗隆が、思い出したように聞いた。
「それはね……」
 駒子が実に愉快そうに話したその『大望』の口に出すのも憚られる程のスケールの大きさに、兄弟は二人とも顎が外れんばかりに驚くことになる。そして兄は思わず笑い出し、弟の方は、一人の忍の身に余る壮大な任務を与えてくれた従姉であり主上である駒子への畏敬の念を一層強くするのだった。

 その駒子との「契約」で、宗美の人生はまたしても大きく転換した。
 駒子は現在、とある私立高校のサッカー部でコーチを務めているという。何でもその高校は数年前まで女子高で、男子サッカー部は新設の三年目、元々女子高だったから男子生徒も数が少なく、選手を集めているところであったらしい。
 宗美は駒子のはからいで急遽特別にその私立葉倉高校の編入試験を受け、入学式ギリギリで無事編入と相成った。
 一時は自分とは全く縁の無い世界としか考えられなかった、高校生活のスタートである。
 父は、宗美が忍の道ではなく、高校に通いサッカーをすると決意したことを、驚くほど呆気なく認めた。それどころか、葉倉に通いやすいようにと駒子が提案した、氷上家での下宿も二つ返事で許した。
「お前は好きに生きよ。思えばお前には様々なものを背負わせすぎた。責任は宗隆に取ってもらう。今まで済まなかったな」
 父は、宗美にそう言って頭を下げた。兄は相変わらずへらへらと笑っていた。自由のない忍の世界が嫌で家を出たんじゃなかったのかと聞くと、
「俺は今でも好きに生きてるよ。今の俺にとって一番大事なのは、響子と貫太郎と一緒に暮らすことだ。だから親父に頭を下げるのなんて屁でもない」
 お前も、そういうものの為に生きろ。それは忍でもなんでも変わらないから、と珍しく真面目な顔で言った。
「まあでもあれか、宗美も高校生か。いいねー、青春してこい!」
「青春の為に行くわけでは……あくまで大望の……」
「そういうのはいいんだよ! どうせコマのことだ、無茶苦茶なことやらせるに決まってる。だからそれを楽しめ。サッカーってなそういうものだろう!」
 兄はそう言って宗美の背中をばしばしと叩いた。
 宗美には、兄の言っていることが今一つ分からない。何かを得るためにサッカーを続けていたわけではなく、中学でサッカー部にいても、楽しいと感じたことは無かったからだ。
だが、自分が誰かに「求められている」という感覚は、宗美にはたまらなく蠱惑的だった。とにかく忍者というものの習性として躊躇なく行動するための指針が欲しかったのだ。

こうして宗美は十五歳の春、フットボーラ―としての人生をなし崩し的に歩み始めたのであった。

                ≪続く≫
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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