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久留里忍法帳外伝~わくらばっ~ 第一話 その三

久留里忍法帳外伝~わくらばっ!~ 


第一話 その三

「お前が1年C組の篠原武史か」
「あ?」
 その高圧的な女の声に、武史はあらん限りの嫌悪感を剥き出しにして振り向いた。女はまだ若く、大学生くらいに見えた。眼鏡をかけ、長い髪を後ろで縛ったその姿は美人と呼べなくもない。
 だがその女が何の用だ。校舎裏で仲間と煙草を吹かしていた武史は、女がこの学校の教師でないことに内心安堵しつつも、腕組みをして高慢な目で自分を見下ろしている女を瞬間的に『敵』と判断し、メンチを切る。
「お姉さん何の用? まさかとは思うけど俺らのことチクるつもりじゃ……」
「噂は聞いているぞ篠原。恵まれた体格と手堅い守備で船堀二中のキャプテンだった男。ポジションは主に中盤の底。トレセンにも呼ばれてたそうだな。しかしどういうわけか中三の秋ごろからグレ始め、頭を染めた今では無気力系不良の仲間入り……。よく調べているだろう?」
 からかい半分で声をかけた仲間の言葉は完全に無視し、女の目は武史にしか向いていなかった。しかもどこで聞いたか武史の触れられたくない過去まで知っているときた。
「もったいないな。身長もまだ伸びているようだし、サッカーを続けるべきだ。もちろん煙草などもってのほか……」
「なんでそんなことアンタに言われなきゃなんねぇんだよ」
 武史は顔をしかめると吸いかけの煙草を空き缶の灰皿に捻じ込み立ち上がった。武史の身長は同年代の仲間達と比べても頭一つ抜けている。今度は武史が女を見下ろす形となった。
「ふふ…やはりでかいな。ガタイも申し分ない。お前、今からでもサッカー部に入れ」
「嫌だね。つかアンタ何者だよ。名乗りもしねぇでベラベラと偉そうに……しかも俺のこと知ってやがんのかよ。気持ちわりぃ」
「ああ、それは失礼。私は氷上駒子。この学校のサッカー部の監督をやっている。君について調べたのは、まあこの業界の人間なら誰でもやることだ。あまり気にするのはケツの穴の小さい証拠だぞ?」
「っざっけんなよ!」
 武史は目一杯の凶相で凄んで見せたが、女は動じる気配もない。こちらが見下ろしているはずなのに高圧的な態度は微塵も揺るがず、最初に声を掛けられた時とまるで変わっていない。
「なぜサッカーを辞めた?」
「あ、アンタにゃ関係ねぇだろ!」
 駒子と名乗った女のその目の力強さに、武史は思わずたじろぐ。そして苦い挫折の記憶が胸をよぎり、武史は思わず駒子から目を逸らした。
 メンチ合戦に完全に敗北し、不良的には失格なのだが、しかし駒子はさらにずいと近付き無理やりに目を合わせてきた。
「関係ならある。お前にはうちのサッカー部に入ってもらわねばならん」
「だから嫌だって言ってんだろ! 何でそんなこと勝手に決められなきゃなんねぇんだよ!」
「本当はやりたいくせに」
「何を根拠に! アンタに俺の何がわかるんだ!」
「わかるさ、お前はサッカーから離れられない。それとも何か? サッカーの他にやりたいことでもあるのか?」
「それは……」
 ない。そんなものあるはずがない。だから俺はこんなところで無為に煙草など吸っているのだ。内心を正直に吐露するならば、駒子の言ったことは全く図星だった。俺はもう一度サッカーがしたい。だがどうすればいい? 越えようもない壁を前に徹底的に打ちのめされ、無様に膝を折ったのだ。そこからもう一度立ち上がるだけのモチベーションが俺にはない。
「おいタケシ、もういいか?」
「あ、ハマちゃん……」
「タケシ……この女ヤベぇよ、イカれてる。ヤっちまおう」
「ヤっちまうって……」
「バカ、そういうことじゃねぇ。お引き取り願うだけだよ」
 逡巡している武史を見かねて、不良仲間の浜口が二人の間に割って入った。
「お姉さんさぁ、戦時中じゃないんだから個人の意見を尊重しないと。タケシはやりたくねぇって言ってんだからさ」
「お前、さっきの話聞いてなかったのか? あいつはサッカーが好きで好きでしょうがないんだよ。やりたくないなんて口で言うのは好きの裏返しみたいなモンだ。ツンデレなんだよ」
「……わけわかんねぇこと言ってんなよ? あんま聞きわけねぇと」
 浜口がドスの聞いた声でそう言って駒子の襟首を掴みかけたその時、駒子の後ろから突如として現れた影が浜口を襲っていた。

 一体いつからここにいたのだろうか。小柄な男が音もなく現れ、疾風のような早技で浜口の腕を後ろに捻り、一瞬のうちに組伏してしまった。この学校の制服を着ているから、生徒なのか。
「ご苦労、ソウビ」
「どうします監督?」
 駒子に指示を仰ぎながら、小柄な男は手際よくポケットから取り出した細い糸で浜口の手足を縛りあげ猿ぐつわまで噛ませてしまう。時間にしてわずか数秒。浜口は声も上げる暇なく全く身動きの取れない状態になってしまった。武史も仲間たちも、止めに入るどころかぽかんと口を開けて目の前の信じ難い光景を見ているほかなかった。
「……お、お前、何だよ、何してやがんだよ!」
 しばらくして、呆気にとられていた仲間の一人が、ようやくそんな言葉を絞り出す。
「あー、もう面倒な状況になっちゃったなこれ。まいいや、ソウビ、そこの金髪以外は用無しだ。動けないようにしちゃって。けがはさせるなよ」
「は」
「ふ、ふざけんなよ!」
 おいやめろと武史が止めようとする間もなく、仲間たちは小柄な男に殺到していた。武史は、男の向こうの駒子が不敵な笑みを浮かべているのが気になったが、しかし仲間が行った以上はそれに続くしかなかった。

 決着は一瞬にして着いた。
 武史達が小柄な男を取り囲んだ直後、男の体から煙幕が立ちのぼり、不良たちは視界を奪われた。
 煙の中には怒声と呻き声が響き、やがて煙が晴れる頃には全く静かになっていた。
 不良たちが皆、浜口と同じように手足を縛られ猿ぐつわを噛まされて転がっていたからだ。
 そして武史は一人だけ、小柄な男に担ぎあげられ、どこかに連れ去られようとしていた。
「ちょ! ちょっと待て! どこに連れてく気だ!」
「おいソウビ、口封じ忘れてるぞ」
「すみません。思っていたよりも人数が多かったので猿轡が足りませんでした」
「無視すんじゃねぇ! 手前ぇら人攫いか?! てかガタイのわりに力持ちだな! お前!」
 武史も何とか抵抗を試みるのだが、手足を縛られ小柄な男の肩に仰向けに担がれていると不思議と暴れることが出来ない。武史にはもう大声を上げることくらいしか出来ることは無いのだが、頭に血が昇ってくるとそれすら困難となった。
「ハァ……ハァ……どこまで、いくんだ……」
「グラウンドだ」
 抵抗する気も失せてしまい、息も絶え絶えに尋ねる武史に、駒子は言う。
「これから練習試合があるんだ」
「あ?」
「それを見るがいい。きっとまたサッカーをやりたくなる」
「なるか、ボケ……」
 ふざけるな、ふざけるな。そんなもの見せるんじゃねぇ。お前らに俺の何がわかるってんだ。俺は、俺は捨てたんだ。きっぱり諦めたんだ。なんでそっとしておいてくれないんだ。また、またピッチに立ちたくなってしまったら、どうしてくれるんだ。俺にまたあんな、惨めな思いをさせようっていうのか。
 小柄な男の肩の上で息を荒げながら、しかし胸に湧きかえる思いの数々が、武史の口から漏れることは無かった。

【続く】
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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