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『久留里忍法帳外伝~わくらばっ!~』 第一話其の四

久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ~

第一話 其の四


 駒子と篠原武史を背負った宗美がグラウンドに到着した時、葉倉サッカー部と練習試合の対戦相手は既に集合も挨拶もし終え、アップも一段落といったところで、両ベンチにて試合前のミーティングを行っているところあった。
 試合の時間も間近に迫ってようやく姿を現した監督に恨み言の一つもぶつけようとしていた部員達は、しかし駒子の後ろに控えていた大柄な男を軽々と担いでいる背の低い男子の姿に度肝を抜かれ、言葉を失ってしまった。
「うーし、お前ら、アップは済んでいるな?」
 駒子は、別段どうということもない、とでも言うように、いつもの通り部員たちに声を掛ける。
「あ、あのー、監督……」
 坊主頭の真面目そうな部員がおずおずと手を挙げ、部員達を代表するように質問をする。
「その……後ろの彼らは一体……」
「新入部員だ。仲良くしてやってくれ」
「いや……新入部員って、明らかに攫ってきてますよね?」
 背の低い男子は既に担いでいた男を降ろし、手際よくその拘束を解くと何処かへ消えてしまっていた。大柄な男はぐったりとしており、いかにも不良然とした格好でありながら最早抵抗しようともしていない。一体二人は、この男に何をしたのだろうか。
「いやぁ、ちょっと抵抗したから……」
と駒子が鼻を掻くと、
「監督、そりゃダメでしょ! 捕まるよ! 捕まるレベルだよ!」
「強引すぎるでしょ! 俺の時もそうだったけど」
「ていうかそいつマジで部活やる気あんの? 無理じゃね」
 それまで唖然としていた部員達が堰を切ったように攻勢に出る。監督の無茶っぷりは部員達にも広く知られているため、無理やり連れてこられた新入部員とやらへの同情も強い。また、人攫いのような仕打ちを受けた人間が素直に入部するわけがないだろうという、至極真っ当な懸念もある。
「はいはい、うるさいうるさい。まあこいつのことは気にするな。今は目の前の試合に集中すること。全員揃ってる?」
 部員達から上がる不満の声を盛大に無視し、駒子は場を仕切り始める。その傲慢とも言える態度に、部員達の声も収まっていく。いや、もうとっくにわかっていたはずではないか。この女には何を言っても無駄なのだ。
「あ、全員は揃ってないです」
「何だと」
 最初に口を開いた坊主頭が駒子に言う。
「榊は生徒会の仕事があるとかで今日はお休みです。あと土屋がさっきから見付かりません。携帯も出ないし……」
「土屋……あのサボり魔め……!」
 眼鏡の奥で駒子の目が阿修羅の如く鋭くなる。
「試合開始まで、あと……」
「いや、もう時間です。待ってもらってるんですよ」
「仕方ない……ソウビ! あれ、どこ行ったソウビ!」
「あ、ここにいます。ていうかさっきからずっといます」
「おおう! いたのか! お前存在感薄すぎ」
 駒子の後ろからひょっこり顔を出したのは、さっき大柄な不良を軽々と担いでやってきて、部員達に多大なインパクトを残したはずの背の低い男子であった。今までずっとそこにいたのか? 部員達の誰もが、その存在を忘れかけていた。
「ソウビ、お前に任務を与える」
「は」
「今この場に来ていない、2年の土屋という男をすぐに連れてこい。奴は妙な勘が働く男でな。他のものでは逃げられる可能性が高い。抵抗するようならさっきみたいに手荒くして構わん」
 御意に、と宗美が言うと、グラウンドに一陣の風が吹き過ぎ、土煙が舞う。風が収まって一瞬目をつむった部員達が気付くと、ソウビと呼ばれた少年は既にその場から消えていた。

 葉倉高校には、一般の生徒が移動教室でもなければ足を向けようともしない教室がある。特別教室棟二階のどん詰まり、第二理科室。
主に生物教室として使われているその広い教室は、生物部の部室でもある。あまり可愛くない類の巨大熱帯魚や爬虫・両性類をはじめとする水槽群が、よくもここまでと言わんばかりに所狭しと並べられており、他の教室にはない異様な雰囲気を醸し出していた。元々が女子高であり、生物分野の愛好者も少ないはずなのだが、なかなかどうして、世の中は広いもので、各世代に必ず幾人かはこういった“ゲテモノ好き”が入学してきており、この異様な空間を維持し続けているのである。
 その男、土屋周一は、その薄暗い教室にいた。
 手掛かりとして駒子に渡された“手配書”を頼りに校内を聞き込み調査し、第二理科室に土屋を見つけた宗美は、開いていた窓から音も無く教室に侵入することに成功した。
 土屋は教室の隅でこちらに背中を向けてしゃがんでおり、侵入してきた宗美に対して一瞥もしない。どうやら気付かれていないようだ。尤も忍者たるもの、人に気付かれないよう行動する技術は無意識レベルで行使出来るよう教育されるもの。この程度ならば造作も無い。
(なんだ、意外と呆気なかったな)
 駒子が妙なことを言うから警戒していたが、所詮一般人が忍びの存在を感知出来るはずがない。
(さて、どうするか……)
 思案しながら宗美は、足音を立てぬ歩法で、す、と近付いていく。こうも堂々とサボっているからには説得などされまい。さっきの篠原武史のように強引に拘束して、とっとと連れて行ってしまうか。
 土屋はしゃがみ込んでごそごそとなにかやっている。何をしているのかわからないが夢中であるらしく、全くの隙だらけであった。少なくともさっきの不良たちより容易い手合いのように宗美には見えた。
(すぐに終わらせて帰ろう)
 が、拘束用の鉄線を取りだしかけた宗美は、次の瞬間、背中に冷や水を浴びせかけられたような怖気を憶える。
「あ、そこの君、悪いんだけど歯ブラシ取ってくれる?」
 しゃがみ込んでこちらを一度も見ていない土屋が、やはりこちらを見ずに話しかけていた。
 気付かれていた! いつから、何故? 気配は完全に絶っていたはずだ!
「あれ、聞こえなかった? そこのさあ、机の上にある……」
 宗美の左手に当たる机を見ると、確かに歯ブラシや布巾、何かよくわからないものの入った瓶が置かれている。
「……なぜ、わかったんです?」
「わかったって、何に?」
「僕の、存在に……」
「んー、どういうこと? 君、おかしなこと言うな。ひょっとして幽霊か何か?」
 土屋は笑いながらそう言うと、気だるげに立ち上がり宗美の方に向き直った。
 ちぢれ髪にいかにも眠たげな垂れ眼、背は高くなく、痩せ型である。およそ武人としての雰囲気は無く、宗美ならば全く抵抗の余地なく組み伏せることが出来る筈であった。
 だが、その程度の男を前にして、体が動かない。宗美は完全に不意を突かれていた。生まれてこのかた鍛え上げたはずの忍の技が一般人に見切られたことなど初めてのことだったからだ。
「君は……新入部員? 生物部の」
「……生物、部……?」
「違うの? じゃあ何でこんな場所に」
 土屋はそう言うと机の上の歯ブラシを手に取ると、再び向こうを向いてしゃがみ込む。
「あの、俺は、サッカー部の……」
「ああ! サッカー部の新入生! え、何? 今日なんかあったっけ?」
「その……練習試合です」
「あーあれ今日だっけ?」
「……忘れていたんですか?」
「忘れてたっていうか、今日は東雲が休みだったからリッくんの餌やりは俺がしなくちゃいけないんだよ」
「“リッくん”…?」
「コイツだよホラ」
 土屋が座り位置をずらすと、宗美の目に飛び込んできたのは図鑑でしか見たことのない巨大な亀だった。
「ケヅメリクガメの“リッくん”。よろしくね」
 リクガメは宗美のことなど眼中にないとでもいうように、目の前の餌箱に夢中になっている。そして土屋は、そんなリクガメの首や顎の下などを歯ブラシで優しく擦っていた。
「それで、練習試合は何時から?」
 リクガメに目をやりながら、土屋が宗美に聞く。
「あ、もう始まってます」
「あら、そうなの。監督怒ってんだろうな」
「ええ、それはもう」
「じゃあ……仕方ない。行くか」
 丁度餌もやり終わったとこだしね。土屋はよっこいせと声を出してリクガメをケージに入れると、少し伸びをした。
「どうした? 行かないの?」
「あ、はい! 行きます!」
 理科室を後にしようとする土屋を、宗美が慌てて追う。
「あーところで君さ、掛け持ちで生物部入らない? もう定員割れしそうでさ」
 至近距離にいるとは言え、忍の訓練を積んでいないものにここまで「普通に」話しかけられたのは初めての経験だった。
 宗美は、グラウンドに向かう道すがら、まるで化け物を見るような目で、隣を歩くやる気無さ気で冴えない男を凝視していた。

             《続く》
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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