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『久留里忍法帳外伝~わくらばっ!~』 第一話其の六

久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~ 

第一話其の六


 後半に入るに当たり、葉倉は半分以上の選手を入れ替えた。
 特に中盤は大幅なテコ入れを行い、しかも交代選手のほとんどが1年生という有り様だった。こんなに大きなテコ入れで、1年生はまともな練習試合には初参加となれば、武史でなくとも連携に不安を持つのも無理はなかったが、それでも駒子は特別な指示は与えなかった。
「前半をお前たちなりに分析して、いいと思うようにやってみろ」
 とだけ言って交代選手を送り出す。こんなことで試合になるのだろうか? と一緒に交代した土屋に聞くと、
「あー、練習試合だしな。取り敢えず自由にやらせてみて、どういう選手か見極めようってことだろ? 俺も去年やらされたよ」
 と、別段何でもないといったように言う。
「で、その上で勝つって? 無茶でしょ!」
「……ユニフォームもばっちり着ちゃってやる気満々のくせに今更何言ってんの。まあ大丈夫、勝てるよ。君もわかってると思うけど、向こうの10番がボール持ったら、上手く寄せていくんだよ。それで奪ったら、まず俺に渡せばいいからね」
 簡単に言ってくれる。武史は周りを見回してみる。前半には4-4-2だった葉倉は、後半からは4-5-1にシステムを変更。ツートップの片割れだった背番号10、今日キャプテンマークを着ける3年の上原が一列下がってトップ下に移動したが、彼以外の中盤は総入れ替え。武史と土屋がボランチに、右サイドは武史を拉致して来たあの小柄な男が入る。
 驚いたのは、左サイドに入ったのが、先ほど武史に罵声を浴びせた「美人」、寺田だったことだ。女で、マネージャーだと疑っていなかった寺田が突如としてジャージを脱ぎ出した時、武史は余りにもわかりやすく狼狽してしてしまった。「男だったのか!」と思わず口にしてしまい、駒子と土屋には爆笑された。
その他、ディフェンス陣は余りいじっていないが、唯一交代したのがディフェンスとしては明らかに線の細い1年の田中だった。果たしてこんな面子で本当に大丈夫なのか? 
 ダブルボランチとして横に並ぶ土屋が気持ちの悪い笑みを浮かべ、空に向かって大きく欠伸をする。闘士の感じられないその姿に、武史は不安を拭いされない。
 少しでも冷静になるため、武史は改めて自分の姿を顧みる。
 武史に与えられたユニフォームは、謀ったようにぴったりだった。白と黒の縦縞に黄色のアクセントは、イメージとしてユヴェントスよりも阪神タイガースを彷彿とさせる。そして、左脇腹に鎮座するのは彼の番号である“8”。
(一ケタかよ……)
 つまり最初から、あの駒子とかいう監督は、武史のことを主戦力として想定していたということだ。
 信頼か――。いや、そんな馬鹿な。だいたいあの女も、それからこのチームの人間だって、一度として武史のプレーなんか見てやしないのだ。中学でも大した成績は収めていない。俺の知名度など高が知れているのだ。
 武史は“身の程”というものを知っていた。自分など取るに足らないプレイヤーだということを骨身に刻んでいた。いや、刻んでいった男がいた。武史はその男には遠く及ばない。きっとその男ですら、高校生でプロになるよう奴や、さらに海外のトップクラスと比べれば有象無象に過ぎないのだ。だから、俺がこんな番号貰ったって……。
 じゃあ何故、お前はまたピッチに立っているんだ?
 もう何度繰り返したかわからぬ自問。こんな気持ちのままボールを蹴っていいはずはないこともわかっている。それでも武史は問わずにはいられない。何故? もう夢は追えない。では何故俺はまたボールを蹴る?
 正直に言えば、武史は葉倉の連中が羨ましかった。あっけらかんとなんの疑いもなく、身の程知らずも当然のように高みを目指せる彼らが。
(もし、この試合勝ったら……)
 俺もまた、夢を見られるのだろうか。
 彼らと同じような、身の程知らずに、俺も……。

 ピッチに立つのは、本当に久しぶりだった。
 最後に試合に出たのはいつだったろう。中学のサッカー部では基本的にベンチを温めたまま忘れ去られるか、もしくは最初から存在を忘れられベンチにも入れてももらえなかった宗美にしてみれば、後半頭からの出場など、ほとんど初めての経験だった。
 フィールドから見上げた空の高さ、緩やかに吹き抜ける風の感触、ひりつくような戦の気配……。
 ここからだ。俺の戦はここから始まる。忍の世界から炙り出され、居場所を失った中途半端な俺に、こんな大仕事が与えられるなんて。だが一方で、本当に俺にそんなことが出来るのか、という思いも消えない。宗美は、心を落ちつけるために今一度フィールドを見渡す。フィールドに立つ人間も、ピッチ外の人間も、彼を送り出した駒子でさえ、もう彼の方を向こうとはしなかった。いつも通り。幼いころよりの訓練の賜物。彼の存在はこの場から消滅した。
 だが、そんな中たった一人、葉倉の背番号7番と目があった。あの土屋周一……。宗美が消したはずの気配を、なぜか探し当ててしまえる男だ。
 土屋は宗美ににかっと笑いかけると、相も変らずどこを見ているのか判然としない目で、茫洋と突っ立っているのだった。
 ハーフタイムの作戦会議を終えピッチに入る前、宗美は土屋と話をした。土屋はやはりこともなげに部員の中から宗美を見つけると、肩を叩いて一緒にグラウンドに行こうと促した。
「さて齋藤くん」
「な、何でしょう?」
「君、忍者なんだって? 監督から聞いたよ」
「……ええ」
「忍者的に見てどうだい、今の戦況は?」
「……驚かないんですか? この時代に忍者だなんて……」
「俺は驚いたっていうより、面白ぇと思ったけど」
「面白い……」
「いや実際、今日の主役は君だからね。ガンガンゴール狙っていいよ」
「でも俺、今まで試合中にパス貰ったことないですよ」
「そりゃね、君、単にチームメイトに恵まれなかっただけだよ。君は確かに忍者だよ。そりゃあ、忍者は普通の人間に気付かれちゃいけないもんなぁ。だから、今日も誰にも気付かれずにいればいい。敵からも、チームメイトからもね」
「でもそれじゃあ、チームに何の貢献も……」
「だから俺だけは、気付いてやるって言ってるのさ。いいかい? 俺が敵陣の手前でボールを持ったら、躊躇せずにサイドを上がるんだよ。俺の予想だと、大層面白いことになるからね。そこからは君の見せ場だ。好きにしな」
「好きに……」
 そんなことを言われたのは、初めてだった。忍の世界では常に指令が全てだった。忍者は作戦を構成する一つの単位に過ぎず、そこに個人の自由の介在する余地などない。駒子がサッカー部に誘われたのだって、ほとんど命じられたようなものだったのだ。
 ま、あんまり気ぃ張らなくてもいいよ。頑張るのは君だけじゃないし。先輩にも見せ場やらないと、へそ曲げちゃうからね。
 土屋はそう言って、ゆったりと自分の持ち場に向かっていった。

 変な男だ――。
 駒子の指示で後半から右サイドに入ることになった小柄な男を見て、土屋周一はつくづく思う。
 何が「変」か。誰も、彼のことを見ようとしないのだ。
「存在感が薄い」などという問題ではない。確かに視界に入っているはずなのに、皆が彼のことを無視しているかのように振舞うのだ。
 土屋から見れば、彼は周囲の人間から徹底的に無視されるいじめられっこそのものだった。その光景は余りにも奇妙で、なぜ誰も彼の存在を異常と思わないのか土屋は不思議だった。
 しかしよくよく観察してみれば、その異常さにも理由があったことに気付く。
 つまりその現象は、彼の「技術」なのだ。
 彼は常に、目立つ誰かの陰に隠れたり、絶妙に誰の目にも止まらない死角を選んでたたり、行動を起こす時も誰も気に留めないタイミングを見計らっている。そういう振舞いを意図的にか無意識的にか、行っている。だから誰も彼の存在を気にしない。目立たない。
(どういうやつなんだコイツ)
 土屋はまだその男、齋藤宗美のプレーを見たことがない。だが、きっと面白いことになる。
後半開始の笛が鳴るのを遠くに聞きながら、土屋は久々に楽しい試合になりそうだとほくそ笑んだ。

             【続く】
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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