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久留里忍法帳外伝~わくらばっ!~ 第二話 その一

久留里忍法帳外伝~わくらばっ!~ 第二話 その一


「サッカーは戦争だ」という言葉がある。あながち大げさな話ではない。1969年、エルサルバドルとホンジュラスはサッカーの試合の遺恨が原因で戦争を起こした。もとよりサッカーは地域に根付いたものであることが多く、同じ国であっても地域ごとに敵対感情を持っていたりする場合、試合の結果如何では殴り合いの喧嘩から大規模な暴動まで、争いごとの種となるのは世界では常識である。何より、フィールドの上で選手たちの見せる憤怒、歓喜、哀愁、悔恨、焦燥、悲哀……様々な感情の奔流は、人間の本性を如実に表現しているが故に、他のどんなスポーツより戦争に似ているとも言える。
 しかしその一方で、クロアチア代表選手のズボニミール・ボバンは「『サッカーは戦争だ』などと言う者は、本当の戦争を知らない」という言葉を残した。実際の戦争を経験した彼にとってみれば、サッカーは戦争であってはならなかった。いや、確かにサッカーは戦争ではない。たかだかスポーツである。そんなもので憎しみを募らせるなど愚かしいことではないか。だがクロアチアの英雄がそうまで言わねばならなかったということは、多くの人間がサッカーに対して戦争に対するのと似たような想いを抱いているということを逆説的に示している。
 サッカーは戦争である。それが真であるとするなら、戦の為に生まれた男がサッカーに関わった時、その交わりは一体どのような結果を生むことになるのだろうか。或いは、やはりサッカーは戦争ではないことが証明されるだけなのだろうか。
 忍として育てられ、修羅の道に生きることを宿命づけられ、或る日突然この“戦争”に関わることになった少年は、未だその答えを知らない。

                     *

 五月の第一週。
 ヨーロッパでは各リーグが大詰めを迎え、Jリーグでは開幕から2カ月が経ちそろそろ今季の主役が固まる頃、世間はゴールデンウィークと呼ばれる大型連休に入る。
 私立葉倉高校もまた世間の例外から外れるものではなかった。土日も含めて丸々一週間が休みとなる。
 その大型連休を利用しない手はないと考えるのは多くの部活の常であり、年度の早いうちに大掛かりな合宿が出来るこの連休は、特にチームスポーツの部活にとって貴重な時間なのである。
 そんなわけで、齋藤宗美(むねよし)が入部した葉倉高校サッカー部も当然のように合宿を組んでいた。特に葉倉は数年前まで女子高であった名残で、男子運動部の地位が低い。さほど広くないグラウンドは県内でも有数の強豪である女子ソフトボール部が最優先で使っているため、なかなかまとまった時間を本格的な練習に費やすことができない。監督である氷上駒子にしてみれば待ちに待ったゴールデンウィークということだ。県内ではあるが合宿施設を借りてみっちり鍛えようという気である。
「さて、諸君! 現在この千葉県は未曽有の戦国時代となっている! 一昔前は市立天橋の天下だったが、ここ数年で他校のレベルも上がってきた。今は市天を中心に、楢志野、浦安総合、日農大柏、八千草、千葉工大付属、幕張実践などなど、実力が拮抗して潰し合いが続いている現状だ」
 合宿所に向かうバスの中、氷上駒子監督が部員達の前で演説をぶち上げていた。もうすぐ合宿所に到着するから、その前に部員達の士気を上げようといったところか。
「ではその強豪達の中に、我々がどうやって喰い込むか! 簡単に言えばそう難しいことではない! 強豪校が増え戦力が拮抗したということは、逆に言えば極端に抜きん出たチームもないということ。ジャイアントキリングも起こしやすい! というか、普通に起こる!」
 ジャイアントキリングとは、格下のチームが格上のチームを食うことだ。サッカーは数ある球技の中でもロースコアで競われるゲームであるだけに、巡り合わせ次第でそういう現象がちょくちょく起こる。
「もとより同じ高校生だ。そうそう差があるわけではない! 要はチームとしてどちらが成熟しているかだ!」
――なるほど。
 凛と張りのある駒子の演説を、齋藤宗美は熱の入った表情で聞き入っていた。駒子は彼の「主」である。忍者として家を継ぐはずだった宗美。だが出奔したはずの兄の帰還によりその道は突如閉ざされた。そこをすくいあげたのが駒子であった。それだけに宗美の駒子に対する感情は、一部活の監督に対する以上の忠誠心となっている。
――監督は本気で天下を取ろうとしている。
駒子の目標は、自分が育て上げたチームを全国の舞台で優勝させることであるという。そして、自分の育てた選手が日本を代表する選手となることでこの国のサッカーそのものを変える、とも。宗美はその駒子の夢に惚れたのだ。
だが、駒子の演説もよそに窓の外を呆けた顔で眺め、時折欠伸などしている男が宗美の隣に座っていた。
「……バスとか電車とかで走ってる時さ、窓の外に忍者が並走してる、みたいな空想するじゃん?」
「何の話すか」
 眠たげな顔で不意にどうでもいいことをぼそりと口走るこの男の名は土屋周一。宗美が完璧に消したはずの気配を感知した唯一のサッカー部員である。気配を消し、他人の意識から消えるのは、宗美が幼い頃よりの修行で身に付けた忍の術である。それを見破ったということはかなりの手練のはずなのだが、覇気や凄味といったものがまるで感じられない。どうにも掴みどころのない男である。
「土屋って乗り物に乗るたびにそれ言ってるよね」
 後ろの席から声を懸けたのは、優しげな雰囲気の2年生だった。
「榊先輩まで……」
 2年生部員の榊二郎は、監督の影響からかやたら目をギラつかせている部員が多い印象のある葉倉サッカー部では珍しく物腰の柔らかな男で、生徒会の副会長も務めている。すらりとした長身で顔も今風のイケメンであるだけに、女子生徒から人気が高いのも頷ける。
「俺はサッカー始めたの高校入ってからだから、監督の言ってることいまいちよくわからないんだよね」
「まあ言ってることは正しいっちゃ正しいよ。スター選手が数人いるチームより、選手の質はそこそこでもチームとして纏まってる方が強かったりするし」
 呆っとしているように見えて、土屋は駒子の話を聞いてはいたようだ。やはりこの男はよくわからない。
 そうこうしているうちにバスは無事合宿所に辿り着いた。駒子の話によれば合宿最終日には強豪校との練習試合も組んでいるという。
 宗美は、面子に若干の不安も感じつつではあるが、これから始まる駒子の天下取りへの第一歩へ胸を高鳴らせながらバスを降りた。
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テーマ : 自作連載小説
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