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『久留里忍法帳外伝~わくらばっ~』第二話其の二

「久留里忍法帳外伝~わくらばっ~」 第二話其の二

 敵陣から弾道ミサイルのように侵攻してきたロングボールを、落下点で待ち受ける。当然相手も同じ箇所に陣取ろうとするから、激しく競り合いをしなければならない。肘で相手の体を押し退け、服の裾を審判に見つからないよう引っ張り合い、熾烈な陣取り合戦を演じる。
 篠原武史は、この手の仕事が一番得意だった。得意というより、小学生の頃から平均身長以上をキープし続けていた武史がサッカーに於いてまず振り分けられる役割がこれだったのだ。
 中盤を駆け回りフィフティのボールを競り合う、ボールホルダーに突っかかる、パスカット、シュートブロック……およそ守備的な仕事のほとんどをこなす汗かき役。それが武史がこれまでのサッカー人生で演じてきた「ディフェンシブ・ミッドフィールダー」の役割である。
 有利な位置を確保して競り合いながら飛び上がる。先にボールに届いた武史の頭がボールを跳ね返す。
 ポンと地面に落ちたボールを近くにいた同じチームの寺田が拾い、体勢を立て直した武史はそのまま空いているスペースに走り込む。
 そこへ寺田からショートパスが放たれ、武史にボールが渡る。
 ボールを持った武史は前方を見る。パスを出した寺田は前線に走り、前線に張っていたフォワード陣もそれぞれ動き出していたが、元々が敵陣深い所からのロングボールだっただけに、敵陣の戻りも早かった。既にパスコースは塞がれ、武史からボールを奪わんとする相手が向かってきている。武史は取り敢えず、プレスの矛先を変えるため真横にいたディフェンスの越智にパスを出した。
 その時、甲高い笛の音がグラウンドに鳴り響いた。

「はい!ストーップ!」
 笛を鳴らし、大声を上げたのは監督の駒子だった。武史は心の中で舌打ちをする。
 駒子はずかずかとグラウンドに入り、武史に近付くと、
「篠原、今の横パスの意図は何?」
 と聞いた。
 武史は咄嗟に言葉に詰まる。「なんとなく」などという答えが許されるはずがないことはもう知っている。
「ええと、前はパスコースが塞がってたから、中盤で組み立て直した方がいいと思って……」
「そうかな? 縦パスの選択肢もあったと思うけど」
 しどろもどろになりかかった武史の横から割って入ったのは先ほど武史とのコンビネーションを見せた寺田匠だった。女のような綺麗な顔は、明らかに不満気に歪んでいる。
「折角マーク外してバイタルに入ってたのに……」
「まあまあタクミちゃん、シノハラくんはロングパスが下手なんだ。保守的になってしまうのも仕方ない」
 さらに話に入ってくるのは三年のフォワード、椎名だ。茶髪のロン毛を後ろで束ねていかにもチャラそうな外見だが、ゴール前での嗅覚は部内でも随一と言われている。
 椎名が会話に加わったのをきっかけに、試合を中断された部員達が続々と議論に加わってくる。
「でも篠原の中盤から組み立て直すってアイデア自体は悪くないんじゃないか? 相手のディフェンスは戻ってたし」
「バァカ、中盤の人数が足りねぇだろ。じっくりいくんならディフェンスラインの連中も上がってビルドアップしないと」
「やっぱりリスクを冒してでもロングパス出しておくべきだよな」
 気付けばほとんどの部員が武史の周りに集まり侃々諤々の議論が始まっていた。これが氷上駒子という指導者のやり方。試合中、効果的でない、無理筋あと思われるプレーがあるとすぐに笛を吹く。試合を止める。そして止めた後、そのプレーをした当人に理由を尋ねるのだ。
「お前たちは、所謂『名門』『強豪』と呼ばれるチームの選手に比べれば技術に劣る! フィジカルに劣る! 才能に劣る! ではどうするか! プレーの一つ一つに明確な意志を持て! 何をしたいのか! どうやってゴールに近付くのか! ゴールを奪うのか! プレーしている間、考えて考えて考え抜け! 考えることを止めるな! その思考を即座にプレーに反映できるようになった時、そしてそれをチーム全体が共有できた時、我がチームは名門にだって強豪にだって勝てる!」
 最初の全体練習の時、駒子はそう咆えた。ドリブル、シュート、パス……個々人の技量では遠く及ばない相手でも、チームとして纏まって状況毎に適切なリアクションの出来るチームであれば太刀打ちできる、いや、勝てる。駒子の言う「戦術意識」とはそういうことだ。だがそれは高校生のサッカー小僧たちにとっては難しい問題であり、メンバー全員、特に一年生は毎日うんうん唸りながらサッカーをしていた。
「私としては、タクミが篠原にパスを送ってマークを外すところまではいい流れだったと思う。タクミはあのプレーで明確にボールを要求していたよな。なら篠原、応えてやるべきだったんじゃないのか?」
 普段の駒子は、武史を拉致した時のように無茶苦茶な言動で知られている。だが、サッカーに関わる時だけは決して理不尽なことを言わない。常に理詰め、理詰めである。だから武史も逆らえない。
「それはいいけど、右サイドでソウビがどフリーだったよ」
 部員達の輪からひょっこりと顔を出した土屋がのんびりした口調で言った。部員全員が「あー」と今気付いたような顔で周囲を探し始める。
「ソウビ! ソウビちょっと出てきなさい」
「あ、すいません、さっきからここにいます」
 一体いつからそこにいたのか、齋藤宗美がややはにかんだような顔で部員達の輪の中で手を上げた。見付けてみれば何故今まで誰も見付けられなかったのだ、という場所だ。
 忍者め……。
 武史は部員達の議論に集中することも出来ず、齋藤の印象に残らない凡庸な顔を、苦々しげに見つめていた。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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