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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の四

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の四


 天橋(あまばし)市立天橋高校は、県下でも有数のスポーツ高である。野球、バレー、ラグビー、ハンドボール……ありとあらゆるスポーツの全国大会でその名を目にしないことはない。その中でもサッカー部は全国屈指の知名度を誇る。選手権優勝は数知れず、数多の有名プロ選手を輩出する天橋高校サッカー部の部員は、厳しいセレクションを勝ち抜いた一握りのエリートであり、日本サッカー界を担う逸材ばかりと言われている。
 そんな名門の栄光に浴していることを、三島忠邦は未だ実感できずにいた。
 いや、もとより自分の「分」は弁えているのだ。人よりほんの少しボールキープが出来て、人より若干パスを出すのが上手い。三島自身はその程度で名門中の名門である市天の門を叩こうなどと思い上っていたわけではない。
 市天のセレクションを受けるようにとしつこく勧めたのは、三島の中学時代のコーチだった。三島のいたチームはそれほど強かったわけではなく、また三島もそこでエースというわけではなかったから、まさか受かるはずもないとダメ元で受けてみたセレクションだったが、三島は合格した。
 そうなると目の色が変わったのは三島の両親であった。折角受かったのだから行かないでは済まないだろうと、三島の意思も聞かずに入学届けを出してしまった。
 ――名門校で三年間ベンチにも入れないのと、そこそこの高校でずっと試合に出られるのと、どちらが幸せなのか。
 三島としてはそう思わないではなかったが、周囲の喜びように、もう引っ込みは付かなくなっていた。それに、何かの間違いであるにせよセレクションに受かったのだから、ハイレベルな選手、指導者のもとでサッカーをするのは、今までと違った楽しみがあるかもしれない。たとえレギュラーに選ばれなかったとしても。

「なあ、お前、今日の相手のこと知ってる?」
「え?」
「いや、だから! 今日の練習試合の対戦相手だよ! 俺、神奈川から来たからこの県のこと知らないんだよ」
「ああ、いや、ごめん、俺もよく知らない」
「んだよ、使えねぇな」
 隣に座る赤川が舌打ちをして再び窓の方を向いた。バスは曲がりくねった道をひた走り、どんどん山奥に向かっていく。
空は曇天。雨は降りそうにないが雲の切れ間はない。だから木々の生い茂る場所に入ると、車内は昼間とは思えぬほど暗さを増していく。その暗さに比例するように、車中の雰囲気もどんよりとしていた。
それはそうだ。今このバスに乗っているのは、市天サッカー部のBチーム。つまり二軍なのだ。一軍は現在行われているインターハイ地区予選に参加中でここにはいない。一軍の試合への帯同すら許されず、名前も聞いたことがないような高校と練習試合を組まされ県奥まではるばるバスに揺られているのが彼らの現状なのだ。
 車内は会話も無く、お互い目を合わそうともしない。何とも重苦しい。とても高校生男子の一団とは思えない。
 バスが一度がくんと揺れ、窓の外を眺めている赤川がまた舌打ちをした。
(赤川は悔しかったろうな)
 三島は隣に座る生意気そうな顔を見ながらそう思った。赤川は三島と同じく一年生だが、神奈川からの留学生だ。なんでも中学時代は県大会で優勝したチームの一員だったという。生粋の点取り屋らしく、性格も少々、いやかなり我が儘の気がある。尤もその才能は一年の中では間違いなく一番で、二、三年生のレギュラークラスにも匹敵すると言われていたから、赤川が未だにAチームに上がれていないことに本人も不満を漏らしていたし、他の部員にとっても不思議な話だったのだ。
(では俺は、どうか)
 三島は自問してみる。自分がAチームに上がれる実力の持ち主でないことは分かり切っていたから、今の境遇に不満はない。だが……。
――つまらないな。
つまらない。市天に入って、三島はサッカーがまるで面白くなくなった。Bチームのメンバーは仲が悪く、練習中もそうでない時も常にピリピリした空気が流れている。確かに競争相手であるから、慣れ合うような関係になれないというのもわかるが、試合中にミスをしてもフォローし合わず、会話やアイコンタクトなどのコミュニケーションも希薄なのだ。これでは周りの動きを見てバランスを取るタイプの三島に思い通りのプレーは出来ない。面白くないのも当然であった。
 この選択は失敗だったのだろうか。このままここにいていいのだろうか。
答えの出ない自問の末に三島が溜息を吐くと、それに呼応するようにまた赤川が舌打ちをした。

「おらキビキビ支度しろ! ちょっと遅れてんだ、相手を待たすんじゃねぇ!」
 コーチは怒鳴るが、対戦相手の待つ合宿所に着いても部員達のテンションは上がらなかった。むしろいかにもやる気なさげな姿を露わにして自分達の境遇に対して抗議しているように三島には見えた。
 するとふと、三島は部員達の輪の中に見慣れない顔を見つけた。どこにでもいそうな顔で、一瞬誰だったか思い出せなかったが、知らない人間だと気が付いた。どこから迷い込んだのか、その背の低い男は市天のものとよく似てはいるがよく見ると全くの別物であるジャージを羽織って、なんとも違和感なく市天サッカー部に紛れ込んでいる。
「あれ、君どこから入って来たの?」
 三島は何気なく話しかけていた。というか何故、部員もコーチも彼に気が付かないのだろう。
 三島に話しかけられた男は、何故かとてもびっくりした顔で三島の方を振り向いた。
「あ、もしかして今日の相手の……」
 三島がそう言いかけた時、強い風が吹いた。一瞬男から目を逸らした三島が気付いた時には、男は既にその場から姿を消していた。
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テーマ : 自作連載小説
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