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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の五

『久留里忍法帳外伝~わくらばっ!~』 第二話 其の五


「左……サイドバック……ですか?」
 寺田匠は呻くように監督に尋ねた。
「そ。練習で何度か試しただろう」
「いや、でも! 俺はもっと前のポジションの方が……」
「もちろんお前が攻撃したがりだってのはわかっている。だが今回はそっちでやってくれ。練習試合だし、いいだろ」
「俺、あんまり守備は……」
「得意じゃない。それも知ってる。でもね、それを補って有り余る可能性を、私は左サイドバック・寺田匠に感じる」
「可能性……」
「左サイドの奥から、ようくピッチを見てみなさい。いろんなことがわかるから」
 突然のことに戸惑っている様子の寺田を見て、監督である氷上駒子はそう言ってにやりと笑った。

 練習試合当日、スターティング・オーダーの発表で、駒子は部員達を少なからず驚かせた。寺田の左サイドバック起用もその一つ。確かに寺田のようなレフティは左サイドバックには理想だが、決して体格に恵まれていない線の細いタイプの寺田が守備をこなせるかは疑問が残る。
 その他にも、三年生のスタメンがフォワードの椎名とゴールキーパーの熊倉のみで、後は一、二年生で固められたこと、サッカーを始めたのが高校からという榊二郎がスタメンに選ばれたことなどが、主に一年部員には驚きだった。
「寺田だけじゃないんだ! お前らも油断するんじゃないぞ、これからメンバーもポジションもどんどんいじっていくからな! 何時でも、何処でもプレーできるように心構えをしておけ! それから、自分の可能性を自分で決めつけるな!」
 今日の相手は市立天橋高校の二軍。二軍とはいえ奴らは厳しいセレクションを潜り抜けたエリート中のエリートだ。世間では向こうの方が圧倒的に強いと思われている。
「だが、所詮は同じ高校生! しかも一軍に定着も出来ない連中だ! この程度の相手に負けるようでは一軍を倒すなど夢のまた夢、我らの野望もここで頓挫だ! だから倒す! 必ず倒す! お前たちの可能性を見せてみろ!」
 以上! 出陣!
 駒子が高らかにそう宣言すると、「応!」と選手たちが叫び、気合の入った様子でグラウンドに向かう。
「監督」
 その時、音も無く駒子の背後に宗美が現れた。
「どうだった、向こうの様子は」
 駒子は予め市立天橋の到着する頃を見計らって、宗美を偵察に出していた。どんな選手がいるか、選手たちの雰囲気は。お互いデータのないチーム同士、細かいことでも知っているのといないのとでは雲泥の差なのだ。
「例の写真の男、やはり居ました」
「赤川な。神奈川で得点王になって調子に乗ったか。まあしかし、おそらく先発で来るだろう。奴のポジションは右ウイングか右サイドだ。寺田には警戒させておこう」
「全体的に選手の士気は低いようでしたが……一人気になる男が……」
「ほう」
 宗美の声が一層神妙になり、駒子は耳をそばだててその報告を聞いた。

                    *

 グラウンドに立ち、相手選手の姿を見て赤川努は確信した。
 大したことはない。
 対戦相手の葉倉……といったか、何でも創部間もないサッカー部であるらしいが、やはり選手は皆小粒だ。
 試合前のウォームアップを見ていても天橋の一軍にいるようなレベルの選手はいない。それどころか、二軍レベルにも届いていないような選手ばかりだ。足元の技術、パス回し、身体能力、どれをとっても負ける要素が見当たらない。
 体格のいい選手も少ない。いかにも「削り屋」といった風情の丸坊主の男、ひょろりと背の高い地味な男、一七五センチの自分よりもフィジカルが強そうなのはこの二人くらいのもの。あとは皆、小さくて線が細い。
(この程度なら楽勝だな)
 さて、何点取れるか。問題はそこだ。まだ今年度は始まったばかり。一軍のメンバーも決して固まってはいない。ここでアピールすれば一軍に上がることも出来るだろう。というより、このタイミングでの練習試合にそういった意図が無いはずがないのだ。
「赤川。見ろよ、向こうのチーム女子が練習に混じってるぞ」
 話しかけてきたのは二年の小宮だった。長身のフォワードで、典型的なポスト役だ。ただ、その上背から期待される得点力があるわけではなく、また競り合いにもそれほど強くはない。未だ二軍で燻っていることからしても、「でかいだけ」の選手だと、赤川は見ている。
「結構可愛いな。マネージャーかな?」
 小宮の指差す方を見ると、確かに相手のパス回しの輪の中に短髪の女子がいる。大きく、凛とした目が印象的だった。
「……あの娘が一番上手いじゃないか」
「あ? ああ、確かにそうかも。今回は楽勝っぽいな。お前、何点取るつもりなの?」
 あんまりお前ばっかり目立つなよ? ああ、お前今日右サイドだよな。いいクロス上げてくれると助かるわ。小宮はそんなことを言いながら親しげに赤川の肩を叩く。その声に何か、殺気の欠片のようなものを感じた。ああ、小宮も必死なのだ。何しろ層の厚い名門校だ。折角入部したのに三年間全く一軍に上がれない部員などざらにいる。このチャンスは絶対にものにしなければならないのは、二軍の選手全員の思いなのだ。赤川は小宮を見上げて言った。
「まあ、まずはチームが勝つことが優先なんでケースバイケースっすね。ただ……」
 俺はこの試合で一軍に上がるつもりなんで。ほとんど睨むように小宮に言い放つ。小宮も上級生の余裕を見せ唇の端で笑った。
「へぇ、先輩に譲る気はねぇんだ。まあ別に構わんけどよ。あんまり我儘なプレーばっかりしてると、誰もパスくれなくなるぜ」
「先輩こそ、あんまり潰され過ぎると敵陣でつっ立ってるだけになりますよ」
 たとえ先輩が相手だとしても関係ない。この世界は実力が全てだ。プレーだけが主張となりうるのだ。
「あんまり調子に乗るなよ」
 憮然とした顔で、ありがちな捨て台詞を吐いて小宮は赤川から離れた。赤川は小宮に一瞥もくれることなく、葉倉の練習風景を睨んでいた。
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テーマ : 自作連載小説
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