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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の七

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の七

  ホイッスルが鳴る。
 ボールが蹴られると同時に、人がめいめい動き始める。
 最初にボールをキープしたのは、眼の覚めるような鮮やかなブルーのユニフォーム。まずは様子見とばかりにパスを回し、攻めどころを探る。
 対する白と黒の縦縞のユニフォームもまた、本気で突っかかってはいかない。適度に距離を取って、敵の攻撃を待ち構える姿勢だ。
開戦直後はゆるやかに、慣れていくに従って徐々に流れを速くしていく腹積もり。お互い知らない手合い同士、相手を観察する時間が必要なのだ。申し合わせたように静かな立ち上がり。ピッチを支配するのは秩序である。
 だが何分も経たないうちに、早くもその秩序を破る者が現れた。或いは既に焦れてしまったのか。
青の背番号30番。右サイドでボールを受け取ったその男が、パスを要求する味方を無視して突如縦にドリブル突破を仕掛けた。
 立ちはだかる敵をフェイント一つで華麗に抜き去り、ペナルティエリアに迫る。その姿はさながら、敵中を単騎で突破し大将の首を狙う騎馬武者であろうか。一番槍の功になら命を支払っても惜しくはない。若さゆえの蛮勇が彼の敵中突破を可能にしていた。
 だが、その騎馬武者に横槍を付けた者がいた。縦縞の14番。女性のような愛らしい顔立ちとは裏腹に勢いよく距離を詰め、ぐいと体を寄せる。そのままサイドラインに追い込もうとする。
 騎馬武者もフェイントで緩急を付けて振り切ろうとするが、14番はしつこく追いすがり、ついに騎馬武者の足を止め、ボールを奪った。
 
                   *

 試合開始のホイッスルが吹かれてものの数十秒で、寺田匠は監督が自分をサイドバックに置いた意図を理解した。
(左サイドの奥から、ようくピッチを見てみなさい。いろんなことがわかるから)
 なるほど、確かに練習で何度か経験してはいたが、実践となると見方はまた違ってくる。試合前に監督に意識させられたのなら尚更、このポジションの独自性も理解できる。
 サイドバックは、フィールドの四隅に近い所に配置される。ディフェンスライン、つまりゴールキーパーを除けば一番後方のポジションであり、後背を気にする必要がない。また、片側がサイドラインに面しているためにこちらも意識の外に置いておける。
 つまり、サイドバックは前方と片側一方を意識に置くだけで、ピッチ上にいるほぼ全ての選手の動きを把握することが出来るのであろう。人間の視野は約200°程だと言われているから首を回すこともなく、勿論錬度は必要であろうが、ゲームメイクや守備に必要な情報が瞬時に手に入るのである。
(つまりこれが、監督の見せたかった光景というわけだ)
 匠は思わず嘆息する。見える。よく見える。ボールや敵の動き、対する味方の反応、それらが一度に眼の中に入ってくる感じだ。これまで、自分の仕事はドリブルだと思っていた。だがフィジカルがなく中途で潰されるから、段々と中盤のパスの受け渡しという中途半端な仕事しか出来なくなっていき、それが匠の不満でもあった。それが、少しポジションを下げるだけでこれだ。
 監督は自分の可能性を自分で決めつけるなと言っていたが、つまりこういうことか。確かにこちらの方が断然楽しそうだった。

 淡々とパスを続けているかに見える敵の中で、一人だけ表情の違う男がいた。左サイド、つまり匠の対面にいる30番、赤川。監督も話していた神奈川ナンバー1チームから来た一年生だ。パス回しには参加せず、眼はこちらの守備に向けられている。こいつは、何かやらかす、と匠は直感した。
 案の定、赤川はボールを受け取るとニヤリと笑ってドリブル突破を敢行してきた。前に立ちはだかった榊をすんなりとかわし、なるほどそのテクニックは並の一年ではない。だが――。
(舐めすぎだっ!)
 そう簡単に抜けると思うなと、匠は赤川に体を寄せていく。速さは互角。赤川は緩急を付けて揺さぶるが、匠はしつこく食らいつく。そして赤川が切り返しをミスした隙を突き、ついにボールを奪い取った。試合開始から初めて葉倉の手にボールが渡ったことになる。
(いける! こいつがこの程度の選手なら怖くない!)
 おそらくプランにない行動だったのだろう、赤川の単独突破に敵の足並みは揃っていなかった。中央ではワントップの28番・小宮が張っているが、センターバックの田中がマークしボランチの篠原が赤川からのパスコースを塞いでいた。赤川が得意とするエリアへのスペースは土屋が先に侵入して潰している。最初に抜かれた榊だって、ただ抜かれたわけではない。赤川にライン際を抜かせるように守備をし、つまり赤川は、ドリブルのコースを絞られボールを奪われやすい方向へ誘導されていたのだ。
 コンバートで視野の広がった匠には、これら全てが見えていた。ああ監督の言うとおりだ、ここまで見えれば確かに面白い。
 そしてボールを奪った匠の眼に真っ先に入ったのが、右手を広げてボールを要求する土屋。その意図も、全く明快だった。
 匠のパスをワンタッチではたき、土屋がボールを渡したのは赤川に抜かれたばかりの榊だった。狙いは無論、赤川の単騎行で空いた左サイドのスペースである。
 そうしてピッチに、けものが解き放たれた

                  *

 市天の右サイドバックに入っていた羽田は、相対していたその男にパスが渡った瞬間、ぞくりとしたものが背中を走ったような気がした。
にこにこと爽やかな笑みを浮かべていた色男。今日出会った――と言っても会話をしたわけではないが――葉倉の11番は野心も心暗さもなさそうな人畜無害な好青年にしか見えなかった。だが、ボールを持った瞬間男は豹変した。目はかっと見開かれ、爽やかな笑みは獰猛な獣じみたな破顔へと変わる。纏った雰囲気が一瞬にして突き刺すような敵意となって、そのプレッシャーから羽田の足は瞬時硬直する。
一歩目が遅れた、と思う間もなく、11番は動き始めていた。
ぽん、と右足で斜め前へボールを蹴り出すと、それを追って猛然と走り出す。一歩目の遅れた羽田はそれを追いかける。だが――。
(速い!)
 追い付けない。一歩目は確かに遅れた。だが仮に送れなくても追い付けなかったろう。はじめの数歩で既にトップスピードに入ってしまっている。「11」の背番号がずんずん遠くなり、羽田は追いかけるのを止めた。
 11番はボールに追いつくとやはりぽんと軽く前方へ蹴り出し、羽田の時と同じように前から迫るセンターバック二人とボールを競って走る。追い縋るディフェンスを、けものの荒々しさそのままに腕をぐいと伸ばして制し、最早彼を止められるものは誰もいなかった。そして、11番が先にボールに追いついたということは、味方の最終ラインが突破されたということだった。
 慌てて飛び出したキーパーもまた憎い程あっさりとかわし、完全にフリーとなった11番は悠々と緩いシュートを沈めてしまった。
 十一番がセンターライン付近でボールを受け取ってからゴールまで、ほんの十秒弱。試合開始から一分四十秒の出来事だった。
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テーマ : 自作連載小説
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Re: タイトルなし

ありがとうございます。続きを早くかけるかは微妙ですが、頑張って書きたいと思います。

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