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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~ 第二話 其の八

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の八


声なき歓声がフィールドを支配した。敵も味方も、声を失う。それほどまでに榊二郎のパフォーマンスは圧倒的だった。
 荒々しいまでのドリブル突破からゴールを決めて見せた当の本人は、さっきまでのけもの染みた表情などおくびにも出さず、元のにこにことした微笑に戻っていた。
 所謂「ラン・ウィズ・ザ・ボール」と呼ばれる技術。空いているスペースにボールを蹴り出し、自らもそのスペースへ侵入していく。相手ディフェンダーがプレッシャーをかけてくれば、ファーストタッチで再び空いたスペースにボールを蹴り、その名の通りボールと一緒に走って相手の裏を取る。
 ボールタッチは少ないものの、瞬時に空いたスペースを見付ける視野の広さ、一瞬の判断力、そして何よりでフェンスを振り切るだけの走力が必要とされる。単純ではあるが単独で得点を決められるレベルに習熟するには相当の鍛錬と才能が必要となる。
(それを、あいつは天然でやってのける)
 駒子は榊がサッカー部にやってきた一年前のことを今でも覚えている。
 創部二年目の葉倉高校サッカー部は、とにかく人出不足に喘いでいた。何しろ葉倉が女子高から共学に変わってまだ二年目。男子で、しかもサッカーをやってくれる男子となると校内にいるほうが奇跡的だった。駒子が直接誘った選手も入部してはいたが、それでも一、二年生かき集めて十名強。一チームメンバーを揃えるのが精一杯という有り様だった。
 榊はそんな折り、土屋の勧めでサッカー部に入部してきた。
「サッカーは中学の時に体育の授業でやったことあるくらいですが、まあ、暇なので」
 人の良さそうな笑みを浮かべながら、榊はそう言った。眉目秀麗で成績優秀だった榊は、入学当初から女子生徒の目を集める存在である。そんな榊が入ってくれればサッカー部にも注目が集まるであろう。スポーツもそこそこ出来るようだったから、まあスタメンの練習補助くらいの存在になればいい。そういう目算が駒子にはあった。
 だが、榊二郎という男は駒子の想像を遥かに越えていた。
 素人なりにやる、と思わせたのは最初の一カ月まで。榊はすぐにスタメンの練習レベルに追い付き、その高い身体能力と学習能力で以って、瞬く間に誰もが彼をエースと認めざるを得ない地位にまで登り詰めてしまった。
 もちろん、足元のテクニックやロングフィードなど、習熟に時間の掛かる技術はまだそれほど上手くはない。だが榊は、技術に劣るなら劣るなりに、今の自分に出来ることのみで相手に勝る方法を見つけるのが上手かった。
 ラン・ウィズ・ザ・ボールの技術も、榊が自分なりにどうすれば勝てるかを考え、工夫し、自ら編み出したものだ。

「す……すごい……」
 駒子の横で齋藤宗美が呟いた。ベンチに座ったまま唖然としたような顔でピッチを見つめている。見れば一年生連中は皆同じような呆け顔だ。ああ、そういえば宗美たち一年生が榊の全力を見るのはほとんど初めてではなかろうか。
「榊は、真剣勝負の場になると、何か人が変わっちゃうんだよね」
 と、榊を連れてきた土屋は言った。普段は良く言えばお行儀の良い、悪く言えば闘争心に欠ける榊だが、いざ試合でボールを受けるとなるとその表情が一変する。さながら獲物を追う肉食の獣。或いは狂戦士の如く野蛮に、何者をも寄せ付けず猛然とゴールに襲い掛かる。
「あの人は……一体」
「ソウビ、あれが何故あそこまで凄いと思う?」
「監督……そうですね、体の使い方が恐ろしいまでに合理的です。忍のそれとは違う。戦人の戦い方です」
「お前……その例えはどうなんだ? まあしかしその通りだ。榊は体の使い方が上手いよ。皆もよく見ておくこと!」
 もも裏のハムストリングを目一杯使って一歩目からトップギアに入り、腕を効果的に振って自らのパーソナルスペースを広げる。近付いてくる敵は腕で制し、あとは純粋に走力の勝負に持ち込む。
 技術的に劣ることを自覚するからこその発想。フェイントで抜こうなどとは微塵も考えていないが故に迷いはなく、最短距離で、最も合目的的にゴールを陥れる。華美ではないが、その野生味にはフットボールの本質がある。
(あの男は間違いなく天才……それも十年に一人といった類の……)
 おそらく野球をやっていればメジャーに行っていただろうし、陸上競技であればオリンピックでメダルを争うところまでに達していただろう。そんな男がサッカー部に現れたのは幸運と言う他ない。
 だが、サッカーは一人では出来ない。突出した一人がむしろ足を引っ張ることもあり得る。
「今のは榊も良かったけど、前線にいる皆がいい動きしてたよねぇ」
 そう言ったのは今日はベンチスタートになった三年の上原だった.
「秋谷と百瀬は迷わず走って相手を右サイドに引きつけてたし、椎名も如何にもパスが出そうな位置取りをしてセンターバックの片方の注意を引いてた」
 上原は三年だが、部内でも特別上手いわけでもない。だがゲームを見る目がありその温和で面倒見の良い人柄はモチベーターとして優れていた。
「そうだ。一人の力で点を獲れるなんてことはない。得点にも失点にも、関わっていない選手などいない。試合に出ている選手はもちろん、控えの選手、監督、マネージャーに応援の観客、それら全ての一挙手一投足がゲームを左右する! ……と思って試合を見ること! 特にお前らはこれから試合に出る可能性があるんだから」
 さあ、ではこれから考えるべきは何か? もう一点取りに行く? それともひとまず落ち着いてもう一度相手の出方を伺う?
 当然榊には厳しいマークが付くだろうから逆サイドから攻めてはどうか。いやいや一点取られて向こうのディフェンスも流石に修正してくるはずさ。さっきみたいにカウンター狙うために一度引いてみては。
 ベンチ周りでの議論がまた活発になったことに満足して、駒子はピッチに目を戻す。既に試合は再開されている。
(首尾よく一点は取れたが、流石に名門。動きが変わったな。この試合、そう簡単には行かないだろう。どこかでもう一点取れないと厳しいか……)
 初っ端の奇襲は成功した。だが同じ手は何度も通用するまい。とすればもう一度、どこかで変化を付けるべきだろう。そしてそのためのうってつけの人材が、今の葉倉にはいる。
 駒子はちらとベンチの方を見た。齋藤宗美はじっと試合を観察している。この男をどの段階で投入すべきか。駒子の見立てによれば、おそらく、この試合は宗美のフットボーラ―としての将来を決定付けるほどの重要なものになるはずであった。

 一点を取られた市天だったが守備陣は落ち着いていた。榊にマンマークを付け独走を封じると、安定した守備を見せるようになった。先制点で勢いを得た葉倉も、一年の秋谷が少々見せ場を作ったくらいで攻撃は封じられたと言ってよい。
 ただ、攻めあぐねたのは市天も同じであった。中盤までは纏まっていい守備をし度々ボールを奪ったものの、肝心の攻撃陣はちぐはぐなままだった。赤川は無謀なドリブルを繰り返し、小宮のポジショニングはあまりにも前過ぎた。
 そんなこんなで両チーム決め手に欠くまま、前半は葉倉の一点リードで折り返すこととなった。
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テーマ : 自作連載小説
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