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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話其の十

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の十


「やあ、君、後半から? よろしくね」
「よ、宜しくお願いします」
葉倉の7番は、後半から交代しピッチに立った三島忠邦に、気さくに話しかけてきた。
「君も一年? 今年の一年は豊作みたいだねぇ」
「いやぁ、どうでしょうか。僕なんか大したことないですしね」
ハーフタイムが終わり、いよいよ後半戦が始まる。自分で志願してこの場所に立っているというのに、三島の心臓はバクバクと一向に収まる気配が無かったのだが、その7番の親しげな態度に幾分落ち着いたようだった。
 三島は、改めて葉倉の7番をまじまじと見た。背は一七〇あるかどうか、体格も華奢な部類に入るだろう。天然パーマの髪は整えられた気配すらなく、目は眠たげで、何を見ているのかよくわからない。
 一見すると冴えない容姿だが、三島はこの男こそが葉倉のキープレイヤーであると確信していた。
 ボールを持ってもワンタッチ、ツータッチですぐに渡してしまうから目立ちこそしないが、そのパスは確実に市天の嫌な所を突いてくる。ハードワークはしない。だが守備の時には何とも潰されていることにも気付かないほど自然にスペースを潰している。飄々と、今にも鼻歌が流れ出すような気安さでピッチを巡るその男に、三島は感化されてしまっていた。そう、それこそ普段ならば絶対にやらない、出場志願すらしてしまうほどに。
 この人は、自分の理想のスタイルに近い。ピッチ全体を把握し、味方を生かしながらゲームをコントロールする。たとえ目立たなくとも、まるで神様にでもなったような、それはこの上なく楽しい役割なのだ。
 とはいえ憧れてばかりもいられない。これから三島は、この男を封じなければならないのだから。

 後半開始の笛が鳴る。葉倉のメンバー変更は無し。フォーメーションもほぼ前半と同じ。そしてやはり、中盤でボールを受けて試合を作るのは7番の仕事のようだった。
(けど……!)
 高い位置で7番にボールが渡ると、すかさず三島が間を詰める。7番は「おや?」というような顔をして一旦足元にボールを収め、真横にいた8番にパスをする。7番は一度三島のマークを外してから8番にボールをもらい、今度は縦にパスを出す。だがそのパスを受け取った時には既に守備ブロックが築かれており、強引な突破も功を奏さず市天がボールを奪った。
(よし、これでいい! このチームのリズムはこの7番の人が作っているんだ。この人のパスを遅らせれば、前線は硬直する!)
 7番の縦パスは、ワンタッチで特に溜めもなく唐突に放たれるため弾道予測が難しい。守備陣が陣形を整える前に蹴っているから、中途半端に空いたスペースも多くなり、葉倉の攻撃陣はそこを狙って来るのだ。前半は運も味方して何とか一点で収まったが、この調子で試合が続くと守備の綻びはもっと大きくなるかもしれない。
 だからハーフタイムに三島が提案したのは、自分が7番へのマンマークに入りそのパスを遅らせることだった。
(もともと守備は得意じゃない……だけど、パスコースを封じて遅らせるくらいなら……!)
 守備の用意が整う前のいかにも7番が「出しそう」なスペース、そしてそこには走り込もうとしている相手の動き、それらを読んで7番のパスを制限する。個人技で市天の守備を突破できる選手は、葉倉には11番一人しかいない。
(その11番の人は、Bチームで一番守備の上手い角野さんがマークしてくれている)
 角野は、三島の提案に真っ先に賛成した三年生だった。真面目で朴訥な性格そのままの堅実な守備。愚直とも言えるそのプレーはAチームのレベルに到達することなく、未だにBチーム暮らしだったが、鷹揚で人好きのする性格から部内での人気は高かった。
『じゃあ、あの11番は俺が抑える』
 三島が7番を封じる策を提案をした時、角野はそう言って三島に賛同した。
『7番は、正直よくわからん。前半もマークに付こうとしてたが、ひょいひょい逃げられちまう。三島なら、捕まえられるんだな?』
『ぼ、僕に出来るのは、パスを遅らすことぐらい……だと思います。でもそれが出来れば……』
『勝機はある』
『はい』
『えらくはっきり言うんだな。お前がそういう奴だったとは思わなかった』

 相手のルーズボールを、ディフェンスの粕谷が奪う。そして三島と目を合わせた粕谷は、中盤で待ち構える三島にパスを送る。
 そしてここからが、三島のもう一つの仕事。
――ああ、僕も思っていなかった。自分がこうも勝ちたがりな人間だったなんて。
 三島は視界の端に捉えた赤川の姿の、その先を目がけて、一気にロングボールを蹴り込んだ。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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