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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の十二

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の十二


 ――クソ! ふざけんな!
 そう心の中で毒づきながら、赤川努は走り出した。
 後ろからは、走り出した赤川を目がけてロングパスが迫っている。やがてそれは赤川を追い越し、芝生の上に落ち、タッチラインに向かって転がっていく。
 ――長ぇんだよ! 足元に出しゃあブチ抜いてやんのに!
 ボールの落下点は、赤川の位置からだとやや遠い。並走するディフェンスと競り合いながら追い付かなければならないことを考慮すると、到達する前にタッチラインを割るのではないかと思われた。
「このっ!」
 伸ばした足は、わずかに一歩分届かない。タッチラインを割ったボールを、赤川と並走していた葉倉の14番が拾い、そのまますぐにスローイン。
 その美しい横顔に、赤川は寸時、見惚れた。汗でこめかみに貼り付いた髪も艶かしく見える、女よりも女らしいその男は、ここまで赤川の突破を尽く封じていた。粘り強く、状況判断に長けた、なかなかいいサイドバックだ。
 ボールが投げいれられ、再びゲームが動き出す。普段なら、守備になど参加しないはずの赤川も渋々下がって守備に参加する。
(三島の野郎、生意気なパス出しやがって!)
 守備は全員参加。これはハーフタイムで三島が提案したことだったが、突然前に出てきた三島に、赤川は驚きを隠せなかった。出会ってからこっち、赤川の知っている三島は本当に市天のサッカー部員かと思うほどに消極的で、プレーの印象などほとんど残っていなかったからだ。
 そんな三島が、まさかあんな攻撃的なパスを迷いなく出してくるような選手だとは、夢にも思っていなかった。中盤でボールを奪ってからすぐにリスクの高い縦パス。当然失敗する確率も高い。現にここまでまともに通ったパスは一本もなかったが、それでも誰も三島を責めないのは、おそらくチーム全体が、パスの通らない理由が三島にないことに気付いているからだった。
(もう少しなんだ。もう少しで……)
 そう、あと一歩。あとほんの一歩前に出れば、三島のパスに届く。届けば、そこからゴールを奪うことは容易いのだ。
 ではその一歩が、なぜ出ない。なぜ。
 前半は、少なくともこんなことで苛立たなかった。
確かに思うようにいかない試合ではあった。葉倉の14番に封じられた赤川は自慢のドリブル突破でコーチにアピールするという目的がなかなか達成出来ず、それどころか、恐ろしいまでの突破力でインパクトを与えたのは敵の11番だった。他の選手は赤川をフォローせず、最前線でポスト役になるはずの小宮も葉倉の守備陣の前に、ちっとも効果的に動けていなかった。
もっと俺にパスを出せ! 俺の為にスペースを空けろ! そしたら俺が点を取ってやる! 心の中で叫びながら、全く思ったようにチームは動いてくれない。だからフラストレーションが溜まるのも当然と言えば当然だったのだが、後半、三島が入ってからの赤川の苛立ちは、それとはまた違ったものだった。
(取れるはずだ、あんなパス! 俺なら! 俺はもっと出来るはずだ! なのになんで届かねぇ!)
 三島の狙いは的確だ。あの縦パス一本通りさえすれば戦局は一気に変わる。常にレベルの高い場所でプレーしていた赤川にはそれがありありとわかる。パスが通らないのは、パスを受ける前線の選手の問題なのだということも、もうチーム全体が気付いているはずだった。
 どうすればいい? どうすれば三島に合わせられる? 俺に足りないのは何だ?
 自然、赤川の目は三島に向けられるようになる。あの地味なプレイヤーは中盤から、相手のキープレイヤーを封じ、ゲームメイクまでしようとしている。三島の近くには常に角野がおり、奪ったボールを確実に三島に繋いでいた。
 そして三島はボールを受け取るや間髪入れず前線に縦パスを入れる。だがそのテンポの早さに、前線の選手はタイミングを合わせることが出来ない。
(もっと早くなのか……? でも早過ぎればオフサイドに……)
 三島のパスを受け切れずにボールを失った左サイドの小岩が守備に捕まり、ボールは葉倉へ。葉倉は前半のようなカウンター狙いをやめて、途中交代した10番が中心になって中盤でパスを交換しながら市天ディフェンスの隙を探っているようだった。
 ハーフタイムで三島の言ったとおり、球離れの早い7番が独特の店舗で繰り出す縦パスが葉倉攻撃陣を活性化させていたようで、今の彼らには前半までの勢いがない。あれだけ圧倒的なパフォーマンスを見せた11番の突破も、敵陣のスペースが埋まった今では影を潜めている。守備は上手くいっていると言っていい。だが点を取れなければ……。
 ――負ける。
 ふとよぎったその言葉に、赤川は戦慄した。
(嫌だ! それだけは嫌だ、有り得ない! こんなところで負けたら、何のためにサッカーをやってきたんだ! 俺は、俺は勝ちたいのに……!)
 赤川は、自分をマークしている女のような男を見た。
 どうすればこの男に勝てる? こいつは俺の動きが読めてるみたいだ。こいつに勝つには、普通のやり方じゃだめだ。もっと、もっと早く……。
 知らず、赤川は市天の守備を注視していた。敵の攻撃を防ぐ。防ぐ。ボールがこぼれる。角野が競り合ってマイボールにする。そしてそのボールを三島に……。
 次の瞬間、赤川は敵陣目がけて走り出していた。まだ三島にボールが渡ったことすら確認しないまま。オフサイドの危険性など、もう頭から消えていた。
――三島なら、通す。
確信があった。三島は、赤川たちよりもゲームの一歩先を見ている。ならばその一歩後を追う人間は、動き出しを早めるほかないのだ。
ふと、後ろからぞくりとする気配を感じた。斜め後ろから迫ってくる14番のものではない。それはまさしく、赤川の望んだとおりの弾道で飛んでくる、三島のパスが放つ存在感だった。
 葉倉のディフェンスは手を上げてオフサイドを主張するが笛はならない。
 ボールは赤川の目の前、ほんの数メートルのところにぽとりと落ちる。赤川は今までの苦労は何だったのかと思うほど容易く、それを前に一蹴りする。
 パスは、通った。
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