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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~ 第二話 其の十三

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の十三

 
油断していたわけではなかった。
 赤川努は一対一の技術ならこのピッチにいる誰よりも上。マッチアップしていた寺田匠は最大限の警戒をこの一年生フォワードに敷いていた。特に足元にパスを貰った時は要注意。その評価と警戒心が、早過ぎとも言えるタイミングで抜け出した赤川への対応を寸時遅らせたのだ。
 オフサイドは、無し。あの41番からのパスが絶妙に過ぎたということか。
――だが、止める!
 匠は右サイドを駆け上がる赤川を追う。ここまでの試合から見るに、足の速さにはさほど差が無い。足元の技術なら赤川が優っているが、純粋な走力勝負ならそう簡単に離されはしない。
(それにコイツは自分でゴールを狙って来るはず。ならどっかで内に切り込んでくる)
 斜めに切り込めば、追い付いて止められる。止められなくても、足を遅らせれば他のディフェンスが間に合う。匠は赤川の左側に体を寄せ、赤川の背中を追う。
 だが、バイタルエリアを目前にしても赤川は足を緩めなかった。コーナーフラッグを目掛けて真っ直ぐ、それ以外の何も目に入っていないかのように。
(クロスを狙ってるのか? コイツが?!)
 ここまでボールを持てば必ず自分でシュートまで持ち込もうとしてた赤川が、今になって急に? 見ればペナルティエリアには長身の小宮が入ってきている。田中がマークに付いているとは言え、カウンターの直後のこと、ディフェンスも陣形を整える余裕がない。空中戦になればどう転ぶか……。
 コーナーフラッグを目の前にして、赤川はさらに加速した。匠も必死に追い縋る。
ゴールラインを割るかというところで、赤川は内へ切り込む動作を見せる。匠がそれに体を寄せようとした次の瞬間、赤川はボールを止めて後方へ反転。そのままの姿勢から左足でペナルティエリア中央目掛けたクロスボールを蹴り上げた。

 三島は、そのクロスが放たれるのをペナルティエリアの手前で見ていた。
 赤川にパスを出すと同時に敵陣目指して走り出したのは三島だけではない。わずかな守備を残して市天は総攻撃に出ていた。ここで決めなければならない。もう後半も半ばだ。是が非でも同点に追い付いておかないと勝ちの目が無くなる。
 中央は小宮と濱野、左サイドからは小岩、右サイドは赤川の後を追って山北が次々と敵陣に迫っている。
敵の戻りも遅くはないが、それでも数の上では互角。いや、前進する市天と後退する葉倉なら分があるのはこちらの方だ。
 赤川の上げたクロスは、敵ペナルティエリアの真ん中あたりを目掛けて弧を描く。そこには、赤川にボールが渡ると真っ先に敵陣に駆け出していた小宮が、絶好の位置に陣取り敵ディフェンダーと競り合っている。前半、小宮は敵の守備陣に抑えられたが、それは味方が攻撃の形を整えられていなかったからだ。お膳立てさえしてやれば、空中戦で長身の小宮に勝てるディフェンダーはそうそういない。
 ボールがゴール前に迫る。小宮が葉倉の背の高いセンターバックと競り合いながら飛び上がる。やや、小宮の方が早く、高い。
 その一瞬、小宮と目が合った。
 小宮は飛び上がりながら三島にちらと視線を向けるとクロスボールを頭で合わせる。それはゴールではなく、その反対側、ペナルティエリア外の三島の元へと向かう。
 そのままヘディングでゴールを割るには、自分の位置はやや遠いという小宮の判断、三島はそう直覚した。そしてボールが自分の前に届くより先に、瞬時にゴール前の状況を見る。中央の小宮はまだ体勢を立て直していない。右サイドの赤川は既にペナルティエリアに侵入するも、まだ角度がありすぎる。左サイドは相手サイドバックの戻りが早い。
 ではどうする、どこにパスを――。
(撃て!)
 ボールが三島の前で低く弾んだ刹那、そう命じられた気がした。
(撃て! 撃て! 撃て! それがお前だ、お前の本質なのだ!)
 誰に? それを問うより前に、三島の体は既にシュート態勢に入っていた。
 右脚が振りかぶられ、振り下ろされる。まるで待ち侘びていたかのように、それは綺麗に転がってきたボールを捉えた。
 振り抜いた右脚から、真っ直ぐグラウンダ―のシュートを放った時、三島は初めて、自分の位置から一直線にシュートコースが空いていたことに気付く。
 ボールはそのコースを正確になぞり、誰もが、放った当の三島ですらも呆然とする中、ゴール右隅に吸い込まれた。
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テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

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