スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の十四

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の十四


 入って、しまった。
 三島は我ながら信じられない思いでその光景を見つめていた。
 揺れるゴールネット。拳を地面に叩きつけるゴールキーパー。或いはうなだれ、或いは空を仰ぐディフェンダー。そして沸き上がる歓喜の声……。
 このシーンは全て、三島が作りだしたものだった。
(や……やってしまった……!)
我に返って、三島は真っ青になった。こんなつもりではなかった。こんなに出しゃばるのは性に合わない。目立たないよう中盤の底で仲間を活かすようなゲームメイクが出来れば、それで十分楽しかったんじゃなかったのか。
「みぃーしぃーまぁーっ!」
 我に返ると赤川がこちらに走ってくるのが見えた。
 やばい、怒られる。あれだけゴールを欲しがっていた赤川だ。手柄を横取りされたと思われたに違いない。
 赤川は三島に駆け寄ると、物凄い勢いで飛び付いてきた。
「よく決めたぞオラ―ッ!」
 何とか尻もちを付かずに耐えた三島に、赤川は満面の笑みでそう言った。
「え?」
「『え』じゃねぇだろ! ……何で泣きそうになってんだよ?」
「え、あの……僕は、そういうつもりじゃ……」
「三島! ナイッシュー!」
「あ、小宮さん……」
 気付くと小宮や、他のチームメイトも駆け寄ってきて、三島の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜていた。皆、やはり笑顔が浮かんでいる。
「あんなミドル持ってるなんて知らなかったぞ! お陰で俺にアシストが付いた」
「いや、あのですね」
「よし、お前ら! これで同点だぜ! 次は逆転! しっかり格の差見せつけてやろうぜ!」
 角野がよく通る声で檄を飛ばし、おう、とチームメイトが応える。
 ああ、なんだ。みんな、こんなに楽しそうに出来るんじゃないか。今まで、何かがおかしかったのだ。サッカーに立ち返ってしまえば、名門校も二軍も関係ない。俺は、ここで皆と楽しみたい。三島は、ようやくこのチームでの自分の居場所を見つけたような気がした。

 ――やられた……。
 41番のシュートがゴール右隅に突き刺さり、市天イレブンが歓喜に包まれる傍ら、篠原武史は歯噛みする想いだった。後半から出場してきた41番のマークを命じられたのは武史だったが、ものの見事にしてやられた。
 のらりくらりとしたやり辛い相手だとは思っていたが、それでも自由にプレイさせていないという感覚もあっただけに、得点まで決められた武史はショックを隠せない。
 ピッチの中央辺りでボールを持ってゲームメイクをするレジスタは、見た目の通りフィジカルが強いわけでもなく足もさほど早くない。根性も無いのか武史が詰めて行くとすぐにボールを離してしまい、そのタイミングが早過ぎるから敵の前線がミスをする。
(そう思い込んでいた。奴は最適なタイミングでの縦パスを狙っていたんだ……!)
 油断。その挙句ゴール前までの独走すら許した。判断が甘かった。ゴール前で決定的な仕事をするタイプではないと高を括っていた。
「うっし、切り替え切り替え! ホラ、篠原」
「すいません! 今の失点は俺の責任です!」
 いつまでもうなだれたままの武史を見かねて、この試合右サイドバックに入っている二年の石田が肩を叩く。だが不甲斐ない思いが消えることはなかった。
「俺、あいつを舐めてたんす! あのパスも苦し紛れに出してるもんだと……」
「いや、それを言ったら……」
「それを言ったら、赤川のクロスを上げさせた俺の責任だ!」
 篠原の後ろからそう叫んだのは寺田だった。その美しい顔は見るからに悔しそうに紅潮し、なんというか、いっそ艶やかにすら見えた。
「俺も赤川を舐めていた。エゴイスティックで自分の技を過信してる奴だと……最後の最後で詰め切れなかった俺の責任だ!」「いやそもそも俺が縦パスを出させなかったら!」
「お前ら真面目だなぁ。普通こういう時って責任の押し付け合いになるもんだが……」
 二人の口論に石田が呆れ顔で言う。
「ま、いいんじゃない? 皆の責任ってことで」
 失点したにも関わらず緊張感の無い声は土屋だ。焦る素振りすら見せずに良く言えば堂々と、悪く言えば呑気にピッチを縦断して口論に割って入った。
「いやー、やるよあの三島君。俺全然仕事させてもらってないもん」
「お前はそれでいいのか」
 石田がじとっとした目で土屋を睨む。土屋は悪びれもせず口の端に笑みを湛えながら続ける。
「三島君をマークし切れなかった篠原に非があるとすれば、それは三島君をいい感じにノせてしまった俺の責任でもある。三島君に俺が抑えられた程度で上手くいかない攻撃陣の責任でもあるし、俺をフォローし切れなかった中盤も、ラインを上げ過ぎた最終ラインも、そうそう、篠原を三島君対策に当てた監督の責任でもある」
 ね。誰も、関わってない人間なんかいないんだよ。そういうスポーツじゃないか、サッカーってのは。土屋が自信たっぷりに言うと、その軽口を責めようとも思えなくなってくる。
「それに、まだ同点だしね。反省は試合後のミーティングでじっくりやろう」
 後半まだ決定機を作れていない榊も涼しい顔だ。まるでこの後勝ち越すのが当然、なぜこの程度のことで一々悔しがっているのか、といった顔で、むしろ不思議なものを見るように武史達を眺めているのだから困る。
「ほら、監督も動いたみたいだよ」
 土屋の言うとおり、葉倉のベンチが動いていた。選手交代が告げられ、スタンバイしている選手と駒子が何か話している。
「二枚代え? 監督も思い切ったことを」
「下がるのは、百瀬と……俺かよ!」
 交代を指示された石田は表情に一瞬悔しさを見せるものの、仕方ないと呟いてベンチに戻っていく。
「お疲れー。まあ今日は石田にしてはよくやってたよ。地味に右サイドの起点潰してたし。地味だけど」
「うるせぇ! 土屋テメェ、ミーティングの時ボロクソに言ってやるからな!」
 右サイドバックの石田と交代するのは一年の越智。その越智の影に隠れるようにして立っているのは、中盤を攻守にせわしなく動き回った百瀬と交代する13番。
「ま、そろそろジョーカーを切ってもいい頃合いだよね」
 土屋がいかにも楽しげにそう呟いて、交代選手がピッチに入る。
 しかしその瞬間武史の目に写ったのは越智の姿だけで、しばらく経ってようやく発見した肝心のジョーカーは、いつピッチに立ったのか全くわからなかった。
スポンサーサイト

テーマ : 自作連載小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

熊谷雑文組合

Author:熊谷雑文組合
熊谷雑文組合運営のブログです!皆で書いてたりします★
◆メンバー(このブログの執筆者達)
小竹大樹…隊長的な人
朽葉…ネットランナー
善浪栄一…目が死んでる
萌兄…イラスト係兼、メイド狂
環俊次…2次元ジゴロ
加糖コージ…中学二年生
きのこ汁子…ドール愛好家
など。

最新記事
カテゴリ
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
月別アーカイブ
Twitter
カウンター
ご意見、ご感想

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QR
コメント
トラックバック
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

デジタル書房
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。