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『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の十七

『久留里忍法帳外伝 ~わくらばっ!~』 第二話 其の十七


「どフリーで外すなーーー!」
 グラウンドのそこかしこから同じような声が響いた。葉倉の選手は一様に、折角フリーで抜け出す絶好のチャンスを無為にした男に非難の声を向けていた。
 そんな中監督の駒子だけは、
「ハハハ! やっぱあいつ面白いわ!」
 と如何にも愉快気に笑っていた。
「いや監督、笑いごとじゃないすよ! 奇襲失敗じゃないですか!」
 ベンチにいた石田が窘めるように言う。試合時間は残り少ない。もうあといくつあるかわからないチャンス、それを確実にものにするために投入した「切り札」が齋藤宗美だったのだ。他人に知覚されづらい、という齋藤の特技(?)を活かした奇襲作戦。しかしそれも失敗した。これから齋藤は警戒を強くされるはず。同じことをしようと思っても、さっきのように上手くはいかない。
「奇襲、というのは、何も点を取るのだけが目的ではないよ」
 だが駒子は、それでも尚自信たっぷりに言う。勿論決めてくれればそれに越したことはなかったけど、ソウビだからね。外すことも計算のうちよ。
「じゃあ、何のために……」
「そもそも『奇襲』とは何のために行うか? 千代ちゃん、わかるよね?」
 駒子はベンチの後ろに控えていたマネージャーの稗田千代に話を振る。
「はい。『奇襲』とは、敵の予期しない時期に、予期しない場所から、予期しない方法で攻撃を加えることによって敵を混乱せしめ、反撃の猶予を与えず士気を減退させ、より大きな損害を与えることを目的とする攻撃方法です」
 千代は抑揚も淀みも無く、小さな声だがすらすらと言ってのけた。
「流石千代ちゃん! 忍の家の子だね。そう、奇襲の目的は相手を倒すことそのものではなく、相手の戦力を弱体化させ、こちらの戦力効果を強化するための、言わば布石。だから一度で終わっては意味が無い。むしろここからが、ソウビを投入した真の効果が発揮される時」
「……あの、フリーでどっ外したシュートにも意味があると」
「ある。まあここから先は見てればわかるだろう」
 駒子はそう言ってにやりと笑うと、腕組みをしてピッチを睥睨する。勝利を確信した、と言うより、これから起こるであろうことを楽しみにして止まない子供のように。

 ――外れてくれた……。
 と、三島忠邦は素直に安堵する思いだった。
 出来過ぎなほどに綺麗に嵌った抜け出し。何とかカバーしようとしたが全てが後手だった。どフリーのシュートがバーに嫌われたのは幸運だと言わざるを得ない。
 なぜこうなったのか?
 今のプレー、ただディフェンスの裏に抜け出されたのではない。ディフェンスの、いや、市天の三島以外の全ての選手が全く対応出来ていなかった。誰もその男を見ていなかったのだ。
 その男をマークすべき左サイドバックからして、抜け出されてから初めて存在に気付いたかのように慌てて追いかける有り様だった。なぜだ、なぜ、誰も気付かない?
 後半から入ってきた13番。その顔を三島は凝視する。目を離して思い出そうとしても難しいだろう、何とも特徴の希薄な顔。ああ、そう言えば練習場に着いた時に見た。なぜかうちのチームに混じっていたっけ。
「おい、三島!」
 慌てて声を掛けてきたのは角野だった。
「今のは、何だ?」
「何だと言われましても……」
「わからんか。お前だけは見えていたようだったが……」
「『見えていた』? どういうことです」
「あの抜け出した13番、俺たちは全く見えていなかった。というより、あいつがピッチに立っていることに全く意識が向かなかった」
 越川にも聞いたが、やつも最初は13番をマークしていたそうなんだが、いつの間にか見失っていた、と。
 越川は左のサイドバックに入っている二年生だ。カバーリングの上手さには定評があり、主にセンターバックや中盤の守備のサポート役として働いている。派手さはないが、目ざとい守備をする選手だ。その越川が、見失った? こんなにあっさり?
 しかも越川だけではない。チームの誰もが気に留めようともしなかった。後半途中からの右サイドの選手交代。意図は明白だ。当然、突破を狙って来る。守備陣が意識しない筈はない。むしろ厳重にマークしていて然るべきなのだ。そして、おそらく現に、越川は厳しくチェックをしていた。にも関わらず、見失った。
その時三島は、異常事態が起こっているのだと悟った。角野がわざわざ三島に声を掛けたのも、あの13番が尋常な選手では無いと思ったからだろう。
(だがどうすればいい? なぜ見失ったのかもわからないでは打つ手が……)
「よし、三島、お前はあの13番のマークに入れ」
「え、でも土屋さ……7番は……」
「7番には俺が付く。お前ほど器用にゃ抑えられんだろうが、試合時間ももう残り少ないからな。何とかやってみるさ」
 頼むぞ! と言って角野は持ち場に戻っていった。三島は13番の姿を探す。タッチラインの際で見付けた13番は、まるで透明人間のように、誰から視線を向けられることもなく、またそれがごく自然であるかのように、無表情にピッチを歩いていた。
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テーマ : 自作連載小説
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