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おもいこんだら(前篇)

『おもいこんだら』


 「コンダラ」とは何であるか?

 名作アニメ『巨人の星』のオープニングで「重いコンダラ試練の道を」と歌われた、あの「コンダラ」である。
 勘違いされがちであるが、「コンダラ」は、グラウンドで星飛雄馬が押している直径一メートル、横幅2メートルほどの円筒系の鉄塊と考えるのは間違いである。この物体は「整地ローラー」であり、「コンダラ」とは何の関係もない。
 ならば、「コンダラ」とは何であるか。「コンダラ」は、星飛雄馬の歩む辛く険しい試練の道を体現する「何か」であるはずだ。

 「コン」は「根」であろう。「根気」や「根性」を連想させ、『巨人の星』のイメージに合う。また、植物を支える雄々しさや、生命の根幹であることから、原始宗教に於いて極めて重要な役割を担っていることも無視してはならない要素である。無論「根」は男性器にも通ずる。
 問題は「ダラ」である。まさか「鱈」ではあるまい。とすると考えられるのは「荼羅」、或いは「陀羅」であろう。どちらもサンスクリット語の漢訳であり、単体では意味をなさないが、「根」と合わせて梵語である可能性はある。
 そうすると、「コンダラ」は「根曼荼」であり、曼荼羅のように仏教用語であると考えるのが自然だ。
 曼荼羅は、インドに於いては、諸神を招くために土壇上に砂で描く紋様であり、原意は「円」である。それが日本に伝わる過程で変化し、次第に仏教世界を描いた絵画となっていった。「根荼羅」はそれに準ずるもの、或いは派生形であると考えられる。
 ここで重要になってくるのが「根」である。「根」は「木」と「艮」に分解出来る。
「木」は言うまでも無いが生命と繁殖の象徴であり、陰陽では五行の一つである。
「艮」は八卦の一つである。方角は東北を現し、山、止、手、少男、相続、関節、節度、骨格などを象徴する。
ここから分かるのは、曼荼羅が日本に流布される過程に於いて、多分に中国の陰陽思想を受け、変化したものが「根荼羅」である可能性が高いこと。それは山林といった自然や人間の肉体の根幹となる部分を司り、それらを具象化したものであろうということである。
ここまで考えれば「形」が見えてくる。

 曼荼羅が平面図であるのに対し、根荼羅は立体であろう。まず以って、単なる絵であれば区別する必要が無いのだから、平面ではないはずであり、また「重いコンダラ試練の道を」と歌われていることからも、それなりに質量のある立体物と考えるのが自然である。
 無論、材質が木材となるのは自明と言える。言うまでも無いが「根」からの連想であり、根荼羅の成立過程から考えても自然な流れである。木材でも板状のものでは無いだろう。それでは平面の曼荼羅とさほど変わらない。根荼羅が日本に渡来した時代では加工技術もさほど発達していないだと推察される。さらに、「重いコンダラ試練の道を」の原則に照らし合わせるとなれば、そう、丸太である。
 曼荼羅が仏教物語を絵画にしたものであることから、木材にも絵が描かれていることであろう。しかし単なる絵ではあるまい。おそらくは彫刻、それも、仏師が像を彫るが如き精緻なものでなければならぬ。
こうして我々は「コンダラ」の形状に辿り着いたわけだ。

 根荼羅は木、それも丸太である。重さは2,30キロ、いや、星飛雄馬の努力を思えば5、60、あの作品の荒唐無稽さを鑑みてもう一声プラスして7、80は欲しい。となると、大きさはおおよそ、直径50センチ、長さ1メートルほどになろう。その巨大な丸太に、精緻な仏教物語、それも多分に中国の八卦思想や日本のアニミズムなどが混在したものが彫り込まれているのである。

 こうなると、俄然実物が見たくなってくる。そしてなぜこれが「巨人の星」のオープニングで登場することになったのか、その過程についても詳しく知りたくなってくる筈である。
そして調べていく過程に於いて、10世紀末の文化人である藤原中条兼脇が日本各地の風俗・文化を記した『日本祭訪記』に、

「■原の地に“こんだら”なる奇祭あり。こんだらを担ぎて山中に分け入り試しの儀とするなり云々……」

 などというような描写があったとしても何らおかしくはないのである。
 兼脇の記述が曖昧であること、また文書自体の損壊が酷かったため、「こんだら」が何処の土地の風習であるかははっきりとは分からず調査は難航するものの、しかし尾荻原大考古学研究所の小堀教授の粘り強い活動のおかげで、その場所がS県の山間部であることが特定され、さらに実地調査の結果、根荼羅が現代の日本に門外不出の秘祭としてひっそりと現存していたとしても、全く違和はないのである。

 特別に名は秘すが、S県の山間部にあるT村に初めてカメラが入ったのは、年の瀬も押し迫った12月某日のことであった。取材班のお目当ては勿論、大晦日に行われるという「根荼羅」の儀である。
T村の人口は200人ほど。山々に囲まれた小さな村で、山肌の狭い土地をパズルのように拓いての畑作と、周辺の山での林業が主要産業である。村の真ん中を流れる小川のほとりに民宿が一軒、その向かいに蕎麦屋が一軒あり、村の外から来た人間はそこを利用するしかない。バスの本数も少ないので、村への出入りは容易では無く、有体に言えば外界から閉ざされた村であった。
「平家の落人が住み着いたのが、この村の始まりとも言われておるんですよ」
 村を案内してくれた村長の藤川さん(仮)は言う。
 成程、確かにそういった雰囲気はある。ただ物理的に外界から遮断されているだけではなく、外から来る者を拒み、また外の世界へ出て行くことに対する忌避感を、取材中村のあちこちで感じたからである。
 
「〝根荼羅〟をお見せしますよ」
 終始笑顔を絶やさない村長に、村の外れにある工房に案内してもらった。
 工房とは言っても、外観は粗末なプレハブ小屋で、我々はさしたる期待も無く言われるがままその扉をくぐった。
 小屋の中は濃厚な木の匂いが充満しており、大きなブルーシートが何かに覆いかぶさっていた。その工房で一人我々を待ちうけていたのが、彫師の松蔵さん(仮)であった。村長とは対照的に無口な松蔵さんは、この間還暦を迎えたばかりだという。
 松蔵さんが村長に促されブルーシートを外すと、いよいよ根荼羅が姿を現した。
「これが〝根荼羅〟です」
 松蔵さんがぶっきらぼうに言う。そこにあったのは、まさに木彫りの曼荼羅であった。
 太さは直径50センチほど、長さは1メートル強といったところだろうか。圧巻だったのはその側面にびっしりと彫り込まれた曼荼羅である。後光を背負った阿弥陀如来を始め、幾多の菩薩や阿修羅、また悪鬼やごく普通の人間といった存在までもが、細かく描写されている。これ一本だけで、一つの物語が綴られているようであった。
「これは一番最近完成したものです。この他に十二本あります」
 松蔵さんの言葉の通り、工房の奥には同じようにブルーシートの掛かった完成品があった。
「これは地獄の様子を彫ったもの。これはお釈迦さんの御臨終のシーンですね。有名な四門出遊の場面もありますよ」
 無口な松蔵さんに代わって村長が機嫌よく解説してくれた。
 根荼羅には一本ずつテーマがあり、それぞれに表現しているものが違うのだという。
「一本につき、そうですね、一カ月から二カ月で仕上げます。檜を調達して、乾燥させる時間を含めれば、正味で半年ですかね」
 現在村にいる彫師は松蔵さんを含め三人。それぞれに別の仕事を抱えながらも、共同作業で年に十三本掘る。これが、毎年のことであるというから驚く。あまりに精緻なので、設計図のようなものがあるのかと聞くと、
「設計図はないけども、昔っから村にある絵図があるんで」
 と松蔵さんは頭を掻く。どうやら無口なのは、照れ屋だかららしかった。
 その「絵図」とやらを見せてもらうことは出来なかった。これは本当の本当に門外不出なのである。村長の話によれば数百年前以上前から村の菩提寺に祀られていたのだという。
「これにね、墨を付けて紙の上に転がすでしょう。するとね、紙にこの絵が転写されるのですよ」
 と村長が誇らしげに語る。それも計算に入れて彫られているのである。つまり完成図をさらに左右に反転させた上で、丸太の上に彫り込まねばならない。相当な技術が無ければ為し得ない作業であることが分かる。
 重さはどれくらいかと聞くと、
「ちゃんとは測ったことないけど、5、60キロってとこじゃないかね」
 と、どうも頼りない。
「何しろ毎年作り直すもんだから……」
 なるほど、それもそうか。それに問題は何キロあるかではなく、担げるか担げないかなのだ。持ってみるかと聞かれたので試してみたが、びくともしなかった。同道していた山口君も試したが、大学時代ラグビー部で筋力には自信があった彼でも、やはり動かせなかった。
「根荼羅には、彫師の思いがこもっているのです。彫師だけではありません。我々村の人間、この村で生き、この村で死んでいった先人達の、村への思いが凝縮されておるのです。だから重い。でも、その思いを分かっている者なら、担げます。そうでない者は、例えどんなに力持ちでも、担げません」
 真剣な口調で村長が言った。私たちに対する嫌味という雰囲気は無く、それはまるで自分に言い聞かせているようだった。

        
               【後編へ続く】
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