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「49:51」

 「49:51」

 この数字は、ある一時代の終焉を端的に現しています。

 サッカーファン以外にはピンとこないかもしれません。これは、「ボールポゼッション」の割合を示したもので、先日行われたとあるサッカーの試合で記録されました。

 「ボールポゼッション」とは?
 日本語で言えば、「ボール支配率」のことです。一試合の間に、どちらのチームがどれだけ長い時間ボールを占有していたかの数値で、例えばこの場合だと、Aチームは49%、Bチームが51%、ボールを持っていたということになります。
 ボールポゼッションを見ると、「50:50」なら「五分の試合だったのかな」とか、「60:40」なら「パスサッカー主体のチームとカウンターサッカー主体のチームが戦ったのかな」とか、「70:30」なら「一方的な試合だったのかな」など、ある程度想像が付くようになっています。

 しかし、当然ながら、サッカーの試合というのはボールポゼッションが高い方が勝つわけではありません。
 どんなにボールを占有しても、結局のところゴールに入れなければ意味が無いからです。ボールポゼッションが高くても、守備の堅い相手にボールを持たされている可能性もあるわけで、ボールポゼッションと試合の趨勢は、実のところあんまり関係が無いのです。

 だからこのボールポゼッションという数字は、さして重要視されていませんでした。
 近年、あるチームが現れるまでは。

 
 そのチームというのは、スペインの「FCバルセロナ」です。
 サッカーファンでなくても名前くらいは知っているかもしれませんが、現代のサッカー界に於いては、まあ平たく言ってしまえば「最強」というチームです。
 このチームが最強である所以がまさに「ボールポゼッション」であり、このチームが「ボールポゼッション」という、本来大して重要じゃなかった概念に価値を持たせてしまったのです。

 どういうことかといいますと……

 2000年代半ばから、バルセロナはある戦術を基幹とする方針を強めます。
 その方針とは「ゴールを狙うよりパスを回そう」です。
 いや、最終的に欲しいのはゴールであり、勝利なのですが、それを得るために一旦目先のゴールは諦めてパスを回しましょう、急がば回れ、人生には遠回りだって必要ですよと、そういう方針を取ったのです。
 これは長らくバルセロナというチームの基本理念、伝統として受け継がれてきた方針だったのですが、2000年代の終わりにジョゼップ・グアルディオラというバルセロナОBの監督が就任してから、より顕著になっていきます。

 「我々のやり方で、ボールを70%程度支配できれば、試合の80%には勝つことができる」

 かつてのバルセロナのコーチ、カルレス・レシャック(日本のJリーグでも監督歴があります)という人の言葉ですが、グアルディオラの目指したサッカーは、これを忠実になぞろうとしたものと考えていいでしょう。

 要は簡単な話で、ボールを70%支配しているということは、対戦相手には30%しか攻撃のチャンスが与えられてないわけです。当然、ゴールのチャンスも減ります。もちろんバルセロナは70%の間攻撃する機会があるので、もし選手の得点能力が同じくらいなら、相対的にバルセロナの方がゴールを取る機会も増え、勝利する確率が上がる、というわけです。
 ただ、それでもその30%の少ないチャンスをモノにされて負ける、或いは勝てないことが、まあ20%くらいはある。ポゼッションは絶対じゃない。だから「80%には勝つことができる」と言っているのです。

 当然ながら、70%ボールを支配しているだけでは勝てません。
 レシャックが「我々のやり方で」と言ったのは、つまり、バルセロナの選手達が世界トップレベルのパス能力、戦術眼、そして得点能力を持っていることが前提となっているので、バルセロナ以外のチームがこの理念を実行しようとしても、あまり上手くはいかない。誰にも真似できるわけではないから、このやり方で世界最強になれたのです。

 で、グアルディオラのやり方ですが。
 彼はこの「70%ボール支配」を徹底的に追及します。
 2008年にグアルディオラが就任するまで、バルセロナにはロナウジーニョという世界的な選手がいましたが、グアルディオラは彼を構想外にします。怪我や年齢的な衰えはもちろんありましたが、何より、グアルディオラの目指すサッカーに彼は不要だったのです。
 他にも、デコやエトー、アンリといったスター選手を構想外とし、代わりにバルセロナの下部組織で育成された選手をスタメンに据えます。

 そこからのバルセロナは、そりゃあもう強かった。
 他のチームを全く寄せ付けない圧倒的なパスサッカーは世界中を席巻しました。
 ポンポンポンとテンポ良く回るパスに付いていけるチームはほとんどなく、欧州トップクラスの強豪チームも軒並みバルセロナの前に膝を屈しました。
 高いポゼッションで相手に攻撃の機会を与えず、ボールを追いかけまわさせ、疲れ果てた相手の守備組織にほつれが見えれば、バルセロナの誇るアタッカー陣が一瞬のうちにゴールを陥れる。そんなシーンが何度となく繰り返されました。
 ボールが相手に渡っても、バルセロナはすぐに取り返せます。これも高いポゼッションのなせる技で、自分たちはボールを追いかけ回さないので体力は温存されるし、70%は攻撃の時間なので、それだけ相手の陣地にいる時間が長いわけで、相手がボールを取ってもそこは自陣深く。バルセロナ的には取り返しやすい位置なのです。

 そんなこんなでグアルディオラ就任以後、バルセロナは国内リーグ三連覇。欧州のトップを決めるチャンピオンズリーグでも、連覇こそなりませんでしたが二回優勝しています。
 2012年にグアルディオラは監督を退きますが、彼の敷いた路線は継続されます。
 この間、ずーっと、バルセロナは相手チームをポゼッションで上回り続けます。

 このバルセロナの隆盛と時を同じくして「ポゼッション」という言葉が凄く価値を持つようになりました。
 「ポゼッションサッカー」や「ティキタカ(テンポ良くパスが回っている様子)」という言葉が流行って、「グアルディオラの戦術論」だとか、「バルセロナはどうして強いのか」だとかいうタイトルの書籍がバンバン出ました。
 サッカー実況ではポゼッションが話題に上ることが増え、攻めるにせよ守るにせよ、試合のポゼッションが問題になることが多くなりました。
 「ポゼッションか? カウンターか?」と戦術比較論が展開されれば、一部の過激派は「ポゼッションこそが正義!」と叫びました。
 何しろ時代の最強チームが高いポゼッションを誇るバルセロナですから、それが基準になっていくのは必然でした。
 

 多くのチームが「どうやったらバルセロナを倒せるのか?」と頭を悩ませ、ポゼッションサッカー対策を練り、実践し、多くは破れました。たまに番狂わせが起こるとしても、バルセロナとしてみれば「20%勝てない」のは織り込み済みというわけで、彼らは坦々とパスを回し続けました。

 そんなバルセロナ時代にも、しかし次第に陰りが見え始めます。
 グアルディオラが退任して以降も、バルセロナは世界最強の座に君臨していましたが、相手チームも次第に弱点を見付けてきます。監督交代による微妙な戦術思想の変化、選手自体の不調や衰え、移籍によるメンバー変更……様々な要因があるとは思いますが、段々と、「圧倒的」という程ではなくなっていきました。
 そして、昨季のチャンピオンズリーグではドイツの雄、バイエルン・ミュンヘンに惨敗してしまいます。
 このままではいけない、とバルセロナも思ったことでしょう。


 そして、ようやく話は冒頭の「49:51」に戻ります。
 このボールポゼッションの数字は、9月21日のリーグ戦、ラージョ・バジェカーノ戦で記録されたものでした。
 ここまで読んで頂ければ分かったと思いますが、「49」がバルセロナ、「51」がラージョ・バジェカーノのものです
 なんとこの試合で、バルセロナは相手チームよりポゼッションを下回ったのです! 実に317試合ぶりのことで、これには世界中が驚きました。

 ちなみにこの試合の結果は4-0でバルセロナの勝利。4-0で圧勝したのに、ポゼッションがたった1%相手を下回っただけで、世界中のサッカーファンを驚愕させたのです。これは異常なことです。

 普通に考えれば、バルセロナはパスを回すことよりゴールを取る方を優先した、という話で、サッカーチームとしてはごく当たり前のことをしただけです。
 でも、これまでのバルセロナが普通では無かったので、普通のことをしただけで皆がびっくりしてしまいました。
 テレビ版でただのいじめっ子だったジャイアンが映画だと男らしいので余計カッコよく見えてしまう現象に似てます。いや、違うかな。

 いずれにしても、これはバルセロナが自らのポリシーを捨てて目先の得点を優先した「事件」として受け入れられました。バルセロナの「ポゼッションサッカー」は終わりを迎えつつあるのだと。バルセロナは変わった。バルセロナはまだ強いけど、「ポゼッションサッカー」の時代はもう終わったのだな、と。

 ところがどっこい、バルセロナはその3日後の9月24日、レアル・ソシエダ戦で70%近いボールポゼッションを以って勝利してしまいます。ちなみにスコアは4-1。ラージョ戦と変わらぬ圧勝劇でした。

 これによって分かったのは、バルセロナにとって「ポゼッション」は「高かろうが低かろうがあまり関係ない」ものだという事実でした。パスが回せるなら回すし、点を取れそうなら取る。勝てばよい。ポゼッションの数字はただの結果でした。
 なんのことはない、バルセロナによって「ポゼッション」という概念が流行る以前の状態に、言葉の価値を振り戻したのです

 バルセロナは変わりつつあるでしょう。それは事実だと思います。しかし、それによって「ポゼッションサッカー」という一つのスタイルが終わったわけではありません。終わったのは「ボールポゼッション」という言葉の価値そのものです。
 わずか五年かそこらの間に、それまであまり意味を持っていなかった言葉に価値が付加され、そしてその言葉に価値を付加した張本人の手によって価値自体がはく奪された、という稀有な事態を、サッカーファンは経験したのです。

 というわけで長々書いてきましたが、言葉の価値は非常に移ろいやすいものである、まるでテレビ版と映画版のジャイアンの人物評のように……という話でした。おしまい。
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テーマ : サッカー
ジャンル : スポーツ

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